現代アート経済学 宮津大輔
本書の帯に日産自動車の社長兼最高責任者であるカルロス・ゴーン氏の言葉が使われいる。その理由は、著者がゴーン氏に現代美術についてのレクチャーをしたことがきっかけで、ゴーン氏は現代アートに興味を持つようになったという。そして創業80周年をむかえた日産自動車が日本への恩返しとして、2013年に現代アートを対象とした日産アートアワードを創設したという経緯があったからである。
ゴーン氏にもそんな平和な時代があった。
![]() 宮津大輔(Miyatsu Daisuke) 光文社新書 2014年 |
有史以来、戦勝国は敗戦国の美術品を略奪して持ち帰った。
その時代に最も繁栄している国に美術品が集まることは、昔も今も変わりはないという。
ナポレオンがヨーロッパの覇者となって戦利品を持ち帰り、芸術の中心はローマからパリに移った。その後2度の世界大戦でヨーロッパは疲弊し、ヒットラーが退廃芸術として前衛芸術を排除したために、近代芸術の中心はパリからニューヨークに移った。
こうしたナチスの歴史的な誤ちを取り戻すため、1955年にドイツの田舎町カッセルにおいて現代芸術のグループ展ドクメンタが開催され、その後世界最大級の現代芸術展として5年ごとに開催されているという。
一方、芸術のオリンピックと呼ばれるヴェネチア・ビエンナーレは、1895年にイタリアに加わったヴェネチアがイタリア国内での存在感を示す目的で国際芸術祭を開催し、22万人を集め大成功を収めた。これが現在、世界中で増え続けている、アートでの「都市起し」のはじまりであるという。
日本をみると、横浜トリエンナーレ2001年、あいちトリエンナーレ2010年、越後妻有トリエンナーレ2000年があるが、いずれも取り組みが遅れた。
先進国のアートにかける予算(2012年)は、1位は圧倒的にフランス、次にイギリス、韓国、ドイツ、アメリカ、日本と続く。フランスは日本の約5倍の5163億円である。アートは政治と関わりなしには語ることができない。
日本が国家規模での現代アートへの取り組みに遅れてしまった理由が二つあるという。それは、民主党政権下における「仕分け」による予算削減、もうひとつは東日本大震災であるという。
現代アート市場では、猛烈な勢いで経済成長を続ける東アジアの動きが活発であるという。とりわけ中国マネーが傍若無人にふるまっているのだが、ジャパンマネーが世界を席巻したバブル期の日本とダブって見える。
本書は、サラーリマンでありながら、現代アートの蒐集家として有名な著者ならではの幅広い視点で、深い考察がなされた好著である。→人気ブログランキング
『現代アート経済学』宮津大輔(2014年)
『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』長谷川祐子(2013年)
『現代アートを買おう!』宮津 大輔 (2010年)
『現代アート、超入門!』藤田令伊(2009年)
セゾン現代美術館
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