カクテル・ウェイトレス ジェームズ・M・ケイン
主人公ジョーンが回顧する設定で一人称で書かれているので、読者はこの女性の目を通してストーリーを知らされる。この点が本書のキーである。
カクテル・ウェイトレス ジェームズ・M・ケイン(田口俊樹訳) 新潮文庫 2014年 |
泥酔して車で壁に激突して亡くなった夫は、ジョーンにも息子のタッドにも暴力をふるう飲んだくれの、どうしょうもない男だった。未亡人となった21歳のジョーンは、3歳のタッドを抱え生活費を稼ぐために、レストラン「バラの庭」で、ホットパンツを履いてブラウスの上のボタンを外して給仕するカクテル・ウェイトレスとして働くことになる。
ジョーンは問題を抱えている。
若い刑事が彼女を夫殺しの容疑でつけまわしていること。夫の収入がなかったせいで、電気もガスも電話も止められていること。タッドを亡くなった夫の姉に預けているが、タッドを自分のものにしようと、義姉はジョーンに養育の能力がないことを裁判所に認めさせようと企んでいることである。
若くて美人で色気たっぷりのジョーンは、「バラの庭」に勤めたその日に、大金持ちのやもめ老人の気を引いてしまう。狭心症を抱える老人は、医者から結婚生活は無理と忠告されているが、二人は結婚にこぎつける。老人はジョーンにぞっこんで、性的に結ばれたいと思っているが、ジェーンは触れられることすら我慢しているのである。
作中に登場するジョーンの弁護士の言葉を借りれば、ジョーンは金鉱探し(ゴールドディンガー)、つまり金目当ての結婚を画策してまんまと成功したわけである。さらに、彼女は一度関係を結んだ若いトムのことが忘れられないでいる、どう見てもしたたかな悪女(ファム・ファタール)である。
そして、ジョーンの狙い通り老人は発作を起こし死んでしまい、ジョーンは広い屋敷と遺産を自分のものするのである。
マスコミは夫殺しのスキャンダルを連日書き立て、ジョーンは世間を敵に回してしまうのである。
結婚はジョーンが望んだものではなく、ひとえに老人が熱望した結果であり、狭心症の発作も彼女の忠告を無視し老人が無謀な行動に出た結果であると語られるが、ジョーンが微妙にニュアンスを変えているかもしれない。ジョーンに騙されているようにも思え、心地の悪い違和感が残る。
それが著者の目論見だと思う。→人気ブログランキング
『カクテル・ウェイトレス』ジェームズ・M・ケイン 新潮文庫 2014年
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』ジェームズ・M・ケイン 新潮文庫 2014年
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