その女アレックス ピエール・ルメートル
第一部で若い女アレックスが、ネアンデルタール人のようにがっしりした男に拉致され監禁される。誘拐事件にもかかわらず被害者が特定されないまま、パリ警察の捜査が始まる。第二部では暴行したあと高濃度の硫酸を口から流し込む連続殺人事件が起こる。そして、第三部でシリアルキラーの過去が明らかにされ、事件の全容が浮かび上がってくる、という三部構成になっている。
![]() ピエール・ルメートル 橘 明美 訳 文春文庫 2014年 |
事件を追いかけるパリ警察の捜査陣は揃いも揃って癖のある人物たちである。
捜査班の陣頭指揮をとるカミーユ警部は、母親がヘビースモーカーで妊娠中も構わずタバコを吸い続けたせいか、身長が148センチしかなく、しかもすぐきれるという厄介な性格である。数年前に妻を誘拐され殺された事件は未解決のまま、ときどき妻の事件と捜査中の事件がダブってしまう。本書はカミーユ警部の苦悩もテーマなのである。
部下のルイは金持ちでブランド品で身を包んでいる。同じく部下のアルマンは破格の吝嗇家、もらいタバコの常習者である。カミーユの上司・大男のル・グエンはカミーユとは同期で、二人は気心の知れた仲である。予審判事のヴィダールは、権威をかさにカミーユたちの捜査に口を挟み見当違いの指示を出す典型的な駄目キャリアである。
警察関係者に限らず登場人物それぞれが、強烈な個性の持ち主なのだ。
著者の文章の特徴は、細かい描写が生き生きしていて、まるで映像を見ているかのようである。
予想や見込みがことごとく外れるものの、小気味いいテンポでストーリーが展開されるので、いきおい、そのあとを読み進みたくなる。月並みだけれども、本書を手にしたら寝不足を覚悟しなくてはならない。→人気ブログランキング
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