うそつきくらぶ メアリー・カー
著者の7歳からの少女時代を回想する形で書かれている。舞台はテキサスの田舎町リーチフィールド。雑誌『ビジネスウィーク』がかつて地球上のもっとも醜悪な10の都市のひとつに選んだことがある、という劣悪なところ。
![]() メアリー・カー/永坂田津子 青土社 1999年 |
父親は非番の日に退役軍人仲間と釣り道具屋の奥で、酒を飲みながらバカ話をするのが楽しみで、女房たちはこの会合を「うそつきくらぶ」と呼んでいた。メアリーはこの飲み会に父親にくっついて同席することを許されて、仲間たちが耳を傾ける父親の与太話を聞きながら、あれこれねだっていたのである。
スティーヴン・キングは、『書くことについて』の冒頭で、本書について、次のように触れている。〈メアリー・カーの『うそつきくらぶ』に私は打ちのめされた。その激しさ、美しさ、方言の楽しさによって。さらには、その記憶の完全性によって。メアリー・カーは子供のころのことを全部覚えている。私は違う。〉と絶賛している。
主な登場人物は、上流階級の出のように見えて、何度も結婚していて、マルクスやカミュやサルトルを読み、アルコール中毒で精神を病んでいる厄介な母親。無学だがじゅうぶん立派で無法者と市民とが適度に混じり合っている父親。毒を撒き散らし奇矯な行動を繰り返し癌で死んでいく祖母。主人公と喧嘩を繰り返す合理的で冷たい姉、と主人公である。
父親が「とんちゃん」と呼ぶ主人公のわがまま娘は、まわりに毒づきながら誰であろうが喧嘩を挑み、それでいて茶目っ気たっぷりに気丈に生きていく。
母親は何度も父親に離婚を持ち出して脅していた。ついには、ふたりは離婚してしまい、またよりを戻すいう波乱万丈の夫婦である。
父親は再婚相手の男の態度に腹を立て、ぶちのめして救急病院送りにしてしまうのだ。
著者の紡ぎ出す文章は、詩的な比喩表現が縦横無尽に使われている。本書は卑猥な表現すら高尚そうに響く「比喩の銀行」と言っていい。
本書の続編、思春期を書いた『Cherry』の訳本をぜひ出版していただきたい。→人気ブログランキング
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