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2015年2月

2015年2月28日 (土)

『ジャッジ!』

CMクリエーターの太田喜一郎(妻夫木聡)は、名前のルビが同じ、いい加減な上司の大滝一郎(豊川悦司)のドタキャンで、代わりにサンタモニカのCMグランプリの審査員を押し付けられる。スポンサーのバカ息子が作った「竹輪のCM」が入選しなければ、太田は会社をクビになるという支離滅裂な使命を帯びての渡米である。
太田は英語が達者な同僚の大田ひかり(北川景子)に、夫婦として一緒に行ってくれるように頼み込む。太田はいやいやながら付いていくのだ。

ジャッジ! [DVD]

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監督:永井 聡
脚本:澤本嘉光
音楽:平沢敦士
日本 2013年 105分 ★★★

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さて、CMグランプリの世界は、ハッタリや買収の横行するダーティな世界、それに純朴な太田は馴染めない。
不正を好まない太田は「竹輪のCM」が入賞しようとしなかろうと、グランプリにふさわしい作品に票を投じようとする。そのブレない純真さが、やがて他国の審査員たちを目覚めさせる。ひかりの気持ちも捉える。
最終審査の結果は、買収してグランプリを手中にしようとしていたアメリカ人審査員が自滅し、木沢はるか(鈴木京香)のCMがグランプリを獲得するのだった。
審査委員長も太田の姿勢に共感し、若く希望に満ち純真であった頃の気持ちを取り戻すというハッピーエンド。

暗闇でほかの客の笑い声につられてつい笑ってしまう劇場では、ある程度の評価を得られるかもしれない。居間のビデオでは星3つだ。
ストーリーはまあまあで出演者は豪華なのに、いまひとつなのはなぜか?
笑いをとろうとする勘所がズレているからだろう。

2015年2月27日 (金)

33年後のなんとなく、クリスタル 田中康夫

本書のカバーや帯には、賛辞もあればどちらともつかないコメントものっている。
その中で最も納得がいくのは、斎藤美奈子の〈彼は全然懲りていない。激動の同時代を生きた同世代の富国裕民に贈る「"自伝的"風俗」小説。〉である。著者の半ハンパない数の注釈をつける癖は前作と変わっていない。
ちなみに富国裕民とは、著者の政治家であった祖父が、東条英機の富国強兵に抗して掲げたキャッチフレーズである。

Image_2020112209220133年後のなんとなく、クリスタル
田中 康夫(Tanaka Yasuo
河出書房新社
2014年

著者自身と思われる主人公のヤスオが、犬の散歩中に、由利の友人である江美子と再会するところから物語は始まる。
由利は『なんとなく、クリスタル』の主人公で、33年経ったから54歳になった勘定。ヤスオはかつて江美子とも由利とも関係があった。

ヤスオは江美子や由利たちの女子会に招待され出席すべきかどうか悩むが、断る理由がみつからないので出席する。
眺めのいいマンションのリビングで、ケータリングのイタリアンを舌鼓を打ち、シャンペンだのワインだのを飲みながら、ヤスオは薀蓄を垂れ、あるいは女子たちの話に聞き耳を立てて、あれこれ妄想する。

卒業後、由利はフランス系の化粧品会社に勤め、学生時代に付き合っていた男と結婚したが別れた。
今は会社を立ち上げ、子宮頸がんのワクチン接種の啓発にかかわったり、アフリカの人々に眼鏡を供給しようと南アフリカへの出張を控えている。

阪神淡路大震災のときに自転車で被災地を駆け回リボランティア活動をしたことや、知事時代の「脱ダム宣言」や、自ら受けた手術のことなど、著者が実際に経験したこと書かれている。
「出来る時に出来る事を出来る人が出来る場で出来る限り」とか「微力だけれど無力じゃない」という心構えで、右肩上がりでないこれからの日本を生きていくのがいいという。ふたつのフレーズは、韻を踏んでいて聞こえはいいが中身がない。

黄昏時に、ヤスオはサロンで髪を染めカットをしてもらう。同じ時間帯に妻が付き添って愛犬もサロンでシャンプーとカットをしてもらい、フォークソングの『神田川』のように、頃合をみはからって落ち合う予定というしょうもないところで終わる。
懲りていない。→人気ブログランキング

→【2015.02.17】『なんとなく、クリスタル

2015年2月21日 (土)

アート鑑賞、超入門! 藤田令伊

美術展に行くと、音声ガイドを借りて、会場のセッションごとに掲げられているパネルの説明文をじっくり読むことにしている。説明文で美術展の意図と大まかな流れをつかみ、ガイドで作品のバックグラウンドを知る。
美術展の目玉の作品は時間をかけてじっくり見て、他は入場者の流れに身を委ね、順路に沿って展示室を巡り、すっかり美術展を制覇した気分になって、グッズ売り場にたどり着くというのが、いつものパターンであった。
本書に照らし合わせると私の鑑賞法は、お話にならないくらい、ダメ。
Photo_20210729083401アート鑑賞、超入門!  7つの視点
藤田令伊(Fujita Rei
集英社新書
2015年

著者は、アートの「主体的」な鑑賞の方法をさまざまな観点からわかりやすく解説している。
たとえば、描かれていることを言葉で説明してみる(ディスクリプション)。
その作品を買うつもり(エア買い付け)で見る。
見たアートについて他人と話をしてみる。
知識があると先入観となって、そのままの心で見ることができにくくなる。知識は部下であると考える、意思決定はあくまで自分。
あえて肯定的に見たり否定的に見たりすると、多角的に見ることができる。
スキーマ(考え方のクセ)を崩せるかがポイント。スキーマを崩せば、新しい「気づき」が生まれる。
など、あくまで「主体的」にがテーマ。目から鱗のアート鑑賞法が紹介されている。→人気ブログランキング

現代アート、超入門!』藤田令伊【2013.09.29】
フェルメール 静けさの謎を解く』藤田令伊【2011.12.23】

2015年2月19日 (木)

『トゥルーマン・ショー』

自分の人生を何者かが操作しているかもしれないと考えるのは、神を信じることと同じではないか。
本作にしても、『ガタカ』(97年)や『シモーヌ』(02年)にしても、アンドリュー・ニコルの作品は、風刺の視点が鋭い。

トゥルーマン・ショー [DVD]


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The Truman Show
監督:ピーター・ウィアー
脚本:アンドリュー・ニコル
アメリカ  1998年 103分

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トゥルーマンの日常はテレビ放映されていたのである。しかも世界中に。
彼は巨大なセットの中で人生を歩み、周囲の者は彼を騙すことに必死になっていた。
ひょっとするとトゥルーマンは、もっと早い頃にカラクリに気づいていて、「視聴率がいいらしいので、しばらく騙されているフリをしてやろう」と舌を出していたかもしれない。

Photo

カラクリがばれてしまい、莫大な資金が注ぎ込まれ膨大な時間が費やされた企画が失敗に終わるかも知れないとTVディレクターは慌てた。しかし、翌朝トゥルーマンはいつも通りに起床し朝ごはんを食べて出勤し、キヨスクで新聞を買い、町角で会う人々に何事もなかったように陽気に挨拶する。
トゥルーマンは、モニターを覗いているだろうTVディレクターの方に目をやり、茶目っ気たっぷりに手を振ってウィンクする。

ところで、ショーを楽しみにしていた視聴者たちは、この事態にがっかりしたのか、それともホッとしたのか。それはともかく、これからは一皮むけた役者としてのトゥルーマンを見ることができる。

→【2012.07.14】『シモーヌ

2015年2月17日 (火)

なんとなく、クリスタル  田中康夫

1981年、単行本の発刊当時、賛辞もあったが軽佻浮薄との批評も少なくなかった。
なにしろミリオンセラーだった。
本書には見開き左のページに膨大な数の注がある。この注から著者がパラノイアでお調子者であることがわかる。
巻末に掲げた日本の未来を予測するデータにより本書の評価は上がり、社会批判の書でもあるとの見方もされた。

Photo_20201117144901なんとなく、クリスタル
田中康夫(Tanaka Yasuo
河出文庫
1983年

主人公は昭和34年生まれの20歳、女子大生の由利。モデルのアルバイトをしていて月に40万円も稼ぐ。
大学生でありながらフュージョン・バンドのキーボードを担当する大学生淳一と同棲ならぬ共棲をしている。由利は同棲という言葉が、四畳半ソング的な湿った感じがして嫌いだという。
淳一がツアーで東京にいないときに、由利はディスコで知り合った男と関係を結ぶが、淳一は怒ることはない。由利は淳一とは相性がいいと確信している。一方、淳一もグル―ビーの大学生と関係を結ぶが、いつもは寛大な由利だが今回はヤキモチを焼いた。女の勘で今回は本気そうだと思ったからだ。

日々の買い物から、レストラン、ブティック、聞く音楽、行きつけのディスコなど、もろもろにこだわりがある。
自ら退廃的で主体性のない生き方をしていると自覚している。
実家がアッパーミドルで、ブランド嗜好で性的に自由というのが由利の生き方である。それをクリスタルといっている。

テニス同好会の練習で大学の周辺をジョギングしていて、ふと見かけた30歳くらいの女性を、由利は素敵だと思う。
自分は10年後にどうなっているのだろうと夢想したところで物語は終わる。

巻末には、その後の日本の出生率、老齢人口比のデータが掲載され、主人公たちの未来が明るくないことを暗示している。個性が際立つゆえ毀誉褒貶が著しいが、このデータがなければ性愛小説の部類であろう。→人気ブログランキング

→【2015.02.27】『33年後のなんとなく、クリスタル』田中康夫

2015年2月15日 (日)

9年前の祈り 小野正嗣

障害をもつ幼い息子と暮らすさなえは、同じ悩みを抱えていたみっちゃん姉の入院している息子を見舞うことで、鬱々とした現実に希望を見出そうとする。苦悩するさなえの孤独な心情が巧みに描写されている。
第152回芥川賞(2015年2月)受賞作。
Image_20201122120201九年前の祈り
小野正嗣(Ono Masatsugu
講談社
2014年
さなえは、「引きちぎれたミミズのようにのたくり泣きわめくことでしか感情を表現できない4歳の息子」と、海辺の田舎町の両親のもとに戻ってきた。息子の外見は別れたカナダ人の夫とそっくりで、連れて歩くと「可愛い」と言葉をかけられる。

9年前に、教育委員会の仕事をしていたさなえは、町の国際交流推進事業のカナダ研修旅行に参加した。
その旅行で、誰からも好かれるみっちゃん姉と呼ばれる初老の女と同室となった。
みっちゃん姉の息子は歩き出すのも遅く喋るのも遅く高校を出たが、土建屋を渡り歩くような生活をしているという話を、みっちゃん姉から聞く。

カナダで知り合った青年が日本に現れ、やがてさなえと結婚する。夫は外資系金融会社に転職し息子が生まれ、順風満帆と思われたのは短い期間だった。夫はベンチャー企業の立ち上げで忙しくなったと家に帰らなくなり、やがて離婚にいたった。

9年前と現在とその間を埋める話が、前後しながらストリーは進んでいく。
息子のミミズを引きちぎりたくなることもあった。息子を突き放したいと思うことも、息子の体にミミズがのたくるスイッチをみつけようとしたこともあった。ミミズの比喩はさなえの苦悩の象徴として何度も登場する。

そして、みっちゃん姉の息子が入院する大学病院に息子と船に乗り向かい、途中で、見舞いの品として魔除けのご利益があると伝えられる貝殻を拾うために、島に下船するのである。→人気ブログランキング

2015年2月12日 (木)

『沈みゆく大国アメリカ』堤 未果

国民皆保険制度は、かつてヒラリー・クリントンが手がけたが、保険業界の猛烈な反発で潰された。
しかしオバマ大統領は成し遂げたのだ。
アメリカ国民全員に医療保険の加入を義務づける「医療保険制度改革法」通称オバマケアは、2014年に施行された。多くの人々はオバマに賛辞を送った。

沈みゆく大国アメリカ (集英社新書)

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堤 未果(Tsutsumi Mika
2014年11月
売り上げランキング: 206

 

保険会社は保険に入ろうとする者に持病があっても拒否できない。
こうして国民皆保険制度が始まったのだが、蓋を開けてみれば矛盾だらけ、企業が儲かるシステムになっていた。
保険会社や投資会社からの人材が、政府のブレインとしてオバマケアを設計し、まるで回転ドアをくぐるように、もとの会社に戻っていった。投資会社と薬剤会社と保険会社に金が流れるシステムを作ったのだ。

政府が薬価交渉権を持たないアメリカでは薬は薬剤会社の言い値で売らる。
今も、一度の病気で医療費が支払えず破産するケースは珍しくないという。
株式会社は医療保険であろうと何であろうと、利益を貪欲に追求する。医療や介護は社会主義的なシステムにすべきなのだ。

オバマケアはリーマンショックと同じ、富が少数の大企業に集中する仕組みであるという。この点が著者が最も危惧することである。
リーマンショックの発信源ゴードマンサックス社は、大きすぎて潰せない(Too big to fail)という理由で生き残り、今も膨大な利益を上げている。それを習うかのように、オバマケアが承認されて以来、保険業界では合併につぐ合併が繰り返されているという。

医者サイドにはなにが起こったか?
オバマケアの患者を診療すると、医師は複雑で膨大な量の書類を作らなければならない。書類に少しでも不備があると支払いを拒否される。したがって、オバマケアの患者を診療拒否する医師が急増している。
過剰労働と睡眠不足、訴訟に備える高額の保険料、抱える訴訟などのストレスで医師の自殺率は高い。

日本の医療は国民皆保険制度に支えられ、誰もがどの医療機関にも自由に受診することができるフリーアクセスが建て前となっている。薬剤と診療報酬の値段は政府が決めている。
欠点はあるとしても、世界に冠たる医療保険制度であると著者は讃えている。
→【2011.10.11】『ルポ 貧困大国アメリカ II 』堤 未果

2015年2月10日 (火)

Wallflower ダイアナ・クラール

アルバムに収められているのは、ほとんどが60年代70年代のポップスとロックのナンバー。ダイアナ・クラール自身が、若いころにラジオにかじりついて何回も聴き、口ずさんだ曲だという。懐かしい曲をハスキーな声でエモーショナルに歌っている。
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ダイアナ・クラール(Diana Krall
デイヴィッド・フォスター(プロデューサー)
ユニバーサル・ミュージック
2015年 ✳︎10

プロデューサーは、16回のグラミー賞受賞暦をほこる超大物・デイヴィッド・フォスター。
ゆったりとしたテンポのバラードが並んでいる。ダイアナはジャズに限らず豊かな才能の持ち主であることが、このアルバムで改めて証明された。
タイトルの「フォール・フラワー」はボブ・ディランの曲で、スタジオ録音とライブ版の2曲が収録されている。
4曲目の「アローン・アゲイン」ではマイケル・ブーブレと、11曲目の「フィールズ・ライク・ホーム」ではブライアン・アダムスとデュオを組んでいる。さらに9曲目の「オペレーター」では、・スティル、グレアム・ナッシュという70歳代の大御所をバック・ヴォーカルに従えている。
6曲目の「イフ・アイ・テイク・ユー・ホーム・トゥナイト」は、ポール・マッカートニーのアルバム『キス・オン・ザ・ボトム』(2012年)に収録された曲。ダイアナはピアノで参加した。ポールにぜひ歌わせて欲しいと頼んだそうだ。
ダイアナは70歳代のじいさんたちに寵愛されているようだ。
ダイアナ、デイヴィッド、マイケル、ブライアンはカナダ生まれだから、気心が知れている。
テーブル・キャンドルの揺らぐ光のなか、カナディアン・ウィスキーをちびちびやりながら聴くのがいい。→人気ブログランキング

→【2013.0312】『Glad Rag Doll』(CD)ダイアナ・クラール

2015年2月 9日 (月)

私の、息子

ルーマニア映画。第63回ベルリン国際映画賞(2013年)で金熊賞(最優秀作品賞)を受賞している。
母親は過保護すぎるくらい息子の面倒をみる親バカ。息子はそれに甘え反発し逆ギレすらしてしまうマザコン男である。
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監督:カリン・ピーター・ネッツァー
脚本:ラズヴァン・ラドゥレスク
ルーマニア  2013年  113分

ルーマニアのブカレストで暮らすコルネリア(ルミニツァ・ゲオルギウ)は、自立していない一人息子のバルブが気がかりでしかたがない。妹に「息子は女の言いなりになっている」と愚痴をこぼす。女とは息子と同棲しているシングルマザーのカルメンのこと。

名士を集めたコルネリアの盛大な誕生パーティに息子は顔を出さない。
ちなみに、コルネリアは著名な建築家、夫は検死医、コルネリアの妹は医者である。セレブな一族らしい。
登場人物が揃いも揃って立て続けにタバコを吸う。

高速道路で前の車を追い越そうとして、バルブは道路を横切ろうとした少年を轢いて死なせてしまう。
ここから話は急展開する。
コルネリアは息子の罪を軽くしようと奔走する。
担当の警察官、事故車の鑑定人、息子が追い越そうとした車の運転手に接触し、便宜をはかったり金を払ったりして、証言や証拠を変えさせようとする。
ところが、バルブは頼んだ覚えはないと母親に反発し、完全に拒絶してしまう。
権威とコネとでごり押しし、金での力でなんとかしようとするコルネリアには、嫌悪感を抱いてしまう。

コルネリアは疎ましく思っていたカルメンと共闘を組んでバルブを懐柔しようとするがうまくいかない。
バルブに少年の両親に謝罪するように促すが、もちろん応じるはずもない。
コルネリアは札を封筒に入れ、嫌がるバルブ、カルメンを連れて、被害者の家にむかう。両親を前にしてコルネリアは弔意を伝え、謝罪し、息子がいかに善良であるか、コルネリア自身の息子への思いを切々と訴えるのである。
さて、コルネリアの誠意というか策略は通じるのか?→人気ブログランキング

2015年2月 6日 (金)

考えることの科学 推論の認知心理学への招待 市川伸一

推論を扱う学問には、論理学、確率論、推測統計学、心理学などがあり、そのなかで心理学では、人間が実際にどのように推論するかについての知見や理論を提供しているという。
本書は、認知心理学がどのような学問であるか、どのような分野に活用されるかについて解説している入門書の位置づけらしい。
著者は、心理学ではお馴染みのクイズや著者が作ったクイズをいくつか挙げて、解答に至る推論の過程をあれこれ分析している。

Photo_20201215084601考えることの科学―推論の認知心理学への招待
市川伸一(Ichikaw Shinichi
中公新書
1997年

心理学におけるヒューリスティックス(heuristic)とは、人間が問題解決のために推論し意思決定するさい、暗黙のうちに用いている簡便な解法や法則のことを指している。「うまいやり方」のことで「発見法」と訳される。
このヒューリスティックスは、人工知能の分野で活用される。
コンピュータを用いてアルゴリズムにもとづく計算をして正解にたどり着くが、膨大な量の計算が必要となる。ヒューリスティックスは、必ずしも正しい答えを導けるわけではないが、ある程度のレベルで正解に近い解答を得ることができる方法である。ヒューリスティックスでは、膨大な計算を行わなくとも済むわけだ。
融通のきかないコンピュータに人間のもつ柔軟な処理をさせることが目的である。

人間が推測するとき、知識や感情や他人などからのバイアスがかかり、合理的でない面が多くある。邪推が生まれるということだろう。それによって迷信、誤解、意見のすれ違い、個人的ないさかい、あるいは社会的な偏見が生まれ、ひいては国際紛争までも引き起こす。人間の推論のもつネガティブな面を認め明らかにする研究は、事態の改善につながるという。認知心理学はスケールの大きな学問である。→人気ブログランキング

2015年2月 3日 (火)

火星の人 アンディ・ウィアー

火星にひとりとり残された男の話。悲壮感がないのは、主人公が陽気でひたする前向きだからだ。日記形式で綴られる日々の生存の記録が、宇宙に関する豊富で緻密な知識に裏打ちされていて、リアリティがありつい引き込まれてしまう。
Aaffb140b8404cda8df55e78f15f663b 火星の人
アンディ・ウィアー  小野田和子訳
2014年
早川書房

 人類史上3度目の米国有人火星探査計画アレス3は、ミッション6日目をむかえた。

船外活動中にクルーは激しい砂嵐に襲われ、マーク・アトニーはただひとり火星に取り残される。他のクルーはマークは死んだものと判断し、彼らにも危険が迫っていたため、あわてて地球への帰途についた。

マークにとって幸いだったのは、彼自身がメカニカル・エンジニアでしかも植物学者であったことだ。加えて、無類に陽気な男だった。
予備の食料は早々と底をつきそうだが、何年も持ちそうなビタミン剤を見つけた。マークはジャガイモ栽培を思いつく。ハブ内に畑をつくり、水を作り、暖房装置を修理し、二酸化炭素処理措置を修理しと毎日を忙しく過ごす。
余暇には、クルーたちが残していった70年代のテレビドラマ、ロック、アガサクリスティのミステリを引っ張り出してきて、気分転換する。

やがて、マークは起死回生のアイデアで通信装置を復活させNASAと連絡を取るようになる
地球は大騒ぎになり、大統領が声明を発表し、特集番組が組まれる。姿こそ見えないものの、まるで映画『トゥルーマン・ショー』(1998年)のように、マークの日常は世界の人びとの関心事となる。
やむなくマークを火星に置き去りにして地球に帰還中のクルーたちは心が穏やかではない。
こうして、火星とNASAと宇宙船を舞台にして、話は後半に進むのである。→人気ブログランキング

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