なんとなく、クリスタル 田中康夫
1981年、単行本の発刊当時、賛辞もあったが軽佻浮薄との批評も少なくなかった。
なにしろミリオンセラーだった。
本書には見開き左のページに膨大な数の注がある。この注から著者がパラノイアでお調子者であることがわかる。
巻末に掲げた日本の未来を予測するデータにより本書の評価は上がり、社会批判の書でもあるとの見方もされた。
![]() 田中康夫(Tanaka Yasuo) 河出文庫 1983年 |
主人公は昭和34年生まれの20歳、女子大生の由利。モデルのアルバイトをしていて月に40万円も稼ぐ。
大学生でありながらフュージョン・バンドのキーボードを担当する大学生淳一と同棲ならぬ共棲をしている。由利は同棲という言葉が、四畳半ソング的な湿った感じがして嫌いだという。
淳一がツアーで東京にいないときに、由利はディスコで知り合った男と関係を結ぶが、淳一は怒ることはない。由利は淳一とは相性がいいと確信している。一方、淳一もグル―ビーの大学生と関係を結ぶが、いつもは寛大な由利だが今回はヤキモチを焼いた。女の勘で今回は本気そうだと思ったからだ。
日々の買い物から、レストラン、ブティック、聞く音楽、行きつけのディスコなど、もろもろにこだわりがある。
自ら退廃的で主体性のない生き方をしていると自覚している。
実家がアッパーミドルで、ブランド嗜好で性的に自由というのが由利の生き方である。それをクリスタルといっている。
テニス同好会の練習で大学の周辺をジョギングしていて、ふと見かけた30歳くらいの女性を、由利は素敵だと思う。
自分は10年後にどうなっているのだろうと夢想したところで物語は終わる。
巻末には、その後の日本の出生率、老齢人口比のデータが掲載され、主人公たちの未来が明るくないことを暗示している。個性が際立つゆえ毀誉褒貶が著しいが、このデータがなければ性愛小説の部類であろう。→人気ブログランキング
→【2015.02.27】『33年後のなんとなく、クリスタル』田中康夫
« 9年前の祈り 小野正嗣 | トップページ | 『トゥルーマン・ショー』 »
「小説」カテゴリの記事
- JR上野駅公園口 柳美里(2020.12.23)
- 文豪春秋 ドリヤス工場(2020.12.13)
- 緋の河 桜木紫乃(2019.09.25)
- 『落陽』朝井まかて(2019.04.21)
- 夫のちんぽが入らない こだま(2017.03.25)
コメント