『沈みゆく大国アメリカ』堤 未果
国民皆保険制度は、かつてヒラリー・クリントンが手がけたが、保険業界の猛烈な反発で潰された。
しかしオバマ大統領は成し遂げたのだ。
アメリカ国民全員に医療保険の加入を義務づける「医療保険制度改革法」通称オバマケアは、2014年に施行された。多くの人々はオバマに賛辞を送った。
保険会社は保険に入ろうとする者に持病があっても拒否できない。
こうして国民皆保険制度が始まったのだが、蓋を開けてみれば矛盾だらけ、企業が儲かるシステムになっていた。
保険会社や投資会社からの人材が、政府のブレインとしてオバマケアを設計し、まるで回転ドアをくぐるように、もとの会社に戻っていった。投資会社と薬剤会社と保険会社に金が流れるシステムを作ったのだ。
政府が薬価交渉権を持たないアメリカでは薬は薬剤会社の言い値で売らる。
今も、一度の病気で医療費が支払えず破産するケースは珍しくないという。
株式会社は医療保険であろうと何であろうと、利益を貪欲に追求する。医療や介護は社会主義的なシステムにすべきなのだ。
オバマケアはリーマンショックと同じ、富が少数の大企業に集中する仕組みであるという。この点が著者が最も危惧することである。
リーマンショックの発信源ゴードマンサックス社は、大きすぎて潰せない(Too big to fail)という理由で生き残り、今も膨大な利益を上げている。それを習うかのように、オバマケアが承認されて以来、保険業界では合併につぐ合併が繰り返されているという。
医者サイドにはなにが起こったか?
オバマケアの患者を診療すると、医師は複雑で膨大な量の書類を作らなければならない。書類に少しでも不備があると支払いを拒否される。したがって、オバマケアの患者を診療拒否する医師が急増している。
過剰労働と睡眠不足、訴訟に備える高額の保険料、抱える訴訟などのストレスで医師の自殺率は高い。
日本の医療は国民皆保険制度に支えられ、誰もがどの医療機関にも自由に受診することができるフリーアクセスが建て前となっている。薬剤と診療報酬の値段は政府が決めている。
欠点はあるとしても、世界に冠たる医療保険制度であると著者は讃えている。
→【2011.10.11】『ルポ 貧困大国アメリカ II 』堤 未果
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