9年前の祈り 小野正嗣
障害をもつ幼い息子と暮らすさなえは、同じ悩みを抱えていたみっちゃん姉の入院している息子を見舞うことで、鬱々とした現実に希望を見出そうとする。苦悩するさなえの孤独な心情が巧みに描写されている。
第152回芥川賞(2015年2月)受賞作。
九年前の祈り 小野正嗣(Ono Masatsugu) 講談社 2014年 |
9年前に、教育委員会の仕事をしていたさなえは、町の国際交流推進事業のカナダ研修旅行に参加した。
その旅行で、誰からも好かれるみっちゃん姉と呼ばれる初老の女と同室となった。
みっちゃん姉の息子は歩き出すのも遅く喋るのも遅く高校を出たが、土建屋を渡り歩くような生活をしているという話を、みっちゃん姉から聞く。
カナダで知り合った青年が日本に現れ、やがてさなえと結婚する。夫は外資系金融会社に転職し息子が生まれ、順風満帆と思われたのは短い期間だった。夫はベンチャー企業の立ち上げで忙しくなったと家に帰らなくなり、やがて離婚にいたった。
9年前と現在とその間を埋める話が、前後しながらストリーは進んでいく。
息子のミミズを引きちぎりたくなることもあった。息子を突き放したいと思うことも、息子の体にミミズがのたくるスイッチをみつけようとしたこともあった。ミミズの比喩はさなえの苦悩の象徴として何度も登場する。
そして、みっちゃん姉の息子が入院する大学病院に息子と船に乗り向かい、途中で、見舞いの品として魔除けのご利益があると伝えられる貝殻を拾うために、島に下船するのである。→人気ブログランキング
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