火星の人 アンディ・ウィアー
火星にひとりとり残された男の話。悲壮感がないのは、主人公が陽気でひたする前向きだからだ。日記形式で綴られる日々の生存の記録が、宇宙に関する豊富で緻密な知識に裏打ちされていて、リアリティがありつい引き込まれてしまう。
![]() アンディ・ウィアー 小野田和子訳 2014年 早川書房 |
人類史上3度目の米国有人火星探査計画アレス3は、ミッション6日目をむかえた。
船外活動中にクルーは激しい砂嵐に襲われ、マーク・アトニーはただひとり火星に取り残される。他のクルーはマークは死んだものと判断し、彼らにも危険が迫っていたため、あわてて地球への帰途についた。
マークにとって幸いだったのは、彼自身がメカニカル・エンジニアでしかも植物学者であったことだ。加えて、無類に陽気な男だった。
予備の食料は早々と底をつきそうだが、何年も持ちそうなビタミン剤を見つけた。マークはジャガイモ栽培を思いつく。ハブ内に畑をつくり、水を作り、暖房装置を修理し、二酸化炭素処理措置を修理しと毎日を忙しく過ごす。
余暇には、クルーたちが残していった70年代のテレビドラマ、ロック、アガサクリスティのミステリを引っ張り出してきて、気分転換する。
やがて、マークは起死回生のアイデアで通信装置を復活させNASAと連絡を取るようになる
地球は大騒ぎになり、大統領が声明を発表し、特集番組が組まれる。姿こそ見えないものの、まるで映画『トゥルーマン・ショー』(1998年)のように、マークの日常は世界の人びとの関心事となる。
やむなくマークを火星に置き去りにして地球に帰還中のクルーたちは心が穏やかではない。
こうして、火星とNASAと宇宙船を舞台にして、話は後半に進むのである。→人気ブログランキング
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