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2015年3月

2015年3月19日 (木)

火花 又吉直樹

主人公の徳永と、彼が師匠と仰ぐ先輩漫才師・神谷との10年間の友好を描いた作品である。
神谷の笑いに対する考えは筋が通った理想論であると徳永は思う。
それを実践しようとする神谷を彼は尊敬した。
第153回芥川賞受賞作。
Image_20201207152301火花
又吉 直樹 (Matayoshi Naoki
文藝春秋 
2015年

笑いに対する神谷の姿勢は次の言葉に表わされている。
〈漫才師である以上、面白いことをするのが絶対的な使命であることは当然であって、あらゆる日常の行動は全て漫才のためにあるねん。だから、お前の行動の全てはすでに漫才の一部やねん。漫才は面白いことを想像できる人のものではなく、偽りのない純正の人間の姿を晒すものやねん。つまりは賢い、には出来ひんくて、本物の阿呆と自分を真っ当であると信じている阿呆によってのみ実現できるものやねん。〉

10年後、自らの理想の笑いを追求し続け落ちぶれてしまった神谷を、徳永は認めようとする。笑いに対する自説を貫くあまり人生を逸脱していく神谷をあくまで受け入れようとする主人公を描くことで、本作は成功していると思う。

本作を「人気漫才師の小説としては」という前置きで論ずる向きがあるが、そうした修飾は無用な文芸作品である。→人気ブログランキング

→『』東山彰良 第153回直木賞受賞作

2015年3月13日 (金)

富士百句で俳句入門 堀本裕樹 

2013年6月に富士山はユネスコの世界文化遺産に登録され、富士山ブームが始まった。「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」という長いタイトルになっている。やや下火になったものの、まだまだ富士山ブームは続いている。
俳句の入門書に富士山の句を採用するアイデアは、まさにコロンブスの卵である。
富士山は、日本人なら誰もが知っていて親しみを抱いているので、富士山の句は多少難解な句であっても理解できそうである。
Photo_20210712141401富士百句で俳句入門
堀本裕樹(Horimoto Yuhki
ちくまプリマー新書
2014年

富士山を読んだ句は2000から3000あるそうだ。その中から100句を選び、読み手は、松尾芭蕉にはじまる名だたる俳人から、句集を出している市井の人びとにわたっている。
春夏秋冬と新年の5つのカテゴリーに分けて句に解説を加え、さりげなく俳句の作法やテクニックを示しているところがいい。
俳句は、知識と想像力をフルに活用して、詠み手の意図を凌駕する深読みも許される。俳句の奥深さを思い知らされる好著。→人気ブログランキング

2015年3月 8日 (日)

言葉尻とらえ隊 能町みね子

『週刊文春』(2011/10~2014/5)に掲載された同名のコラムの文庫化。
新聞をとっていないし、本もロクに読まない、テレビも見ない、もっぱら有名人のツイッターやブログなどのネットから、ネタをもってきているとのこと。
ちなみに、著者はコラム執筆のほかにイラストを描き、オールナイトニッポンのパーソナリティをこなした。最近はテレビにも出演していて、サブカルチャーの分野で活躍している。性転換手術で女になった。
33864eb7b3ce41acaa53b22527272839言葉尻とらえ隊
能町みね子 (Noumachi Mineko)
文春文庫
2014年

 マスコミで使われるフレーズ、女子高生の気になる言い回し、有名人の舌禍フレーズ、芸人のギャグ、流行語大賞のノミネートワードなどを、俎上に上げて料理する辛口コラム。批判精神が旺盛なところがいい。曖昧表現に逃げる現代日本のやわな風潮に苦言を呈している。

「ナンシー関ならどう書くか」という常套句にもなった感のある言い方に、もういい加減聞き飽きた自分で答えろと書いているが、イラストの腕がありナンシー関を彷彿とさせるキレが見られ、著者の大いなる飛躍が期待されます。→人気ブログランキング

2015年3月 5日 (木)

1408号室

ホテルのいわくつきの部屋への入室をめぐる、個性派俳優ジョン・キューザックとサミエル・L・ジョンソンの丁々発止のやり取りが見もの。
原作はスティーヴン・キングの同名の短編ホラー小説である。
ライターのエズリンのもとに、「ドルフィン・ホテル1408号室には入るな」と書かれたハガキが届く。
今までどれだけの超常現象というやつを取材してきたことか。ヒヨッコ・ライターと一緒にしてもらっては困るというのが、エズリンの矜持。
彼はそもそも超常現象など信じていない。
Image_202011230933011408号室
監督:ミカエル・ハフストローム
脚本:マット・グリーンバーグ/スコット・アレクサンダー/ラリー・カラゼウスキー
原作:スティーヴン・キング
音楽:ガブリエル・ヤレド
アメリカ 2007年 106分

エズリンはハガキを手にニューヨークのドルフィン・ホテルに出かけて行く。
そして、1408号室への入室を思いとどまらせようとする支配人のオリンとの攻防が始まる。

気の利いた高級ウィスキーを振舞われ、エズリンはオリンの忠告に相槌を打ち聞いているふりをしている。
オリンは、1978年以降、1408号室には誰も泊まっていない、つまり20年以上泊めていないと言う。
部屋にはホルターガイスト現象を引き起こす力が備わっていて、泊まった客が不幸な死をとげているという。かつての宿泊客の無残な姿を撮った写真や新聞記事を見せられても、入室はすでに決定事項であるエズリンにとって泊まらない選択はあり得ない。
そんないわくつきの部屋ならばなおのこと、支配人の忠告など余計なお世話で、前戯にもならないとエズリンは思った。
そして、オリン支配人の懇願にも似た説得を振り切って、エズリンは1408号室に向かう。

1408号室に入ると、拍子抜けしたように部屋はおとなしい。ラジオからはカーペンターズの『愛のプレリュード』が流れている。
「それ」はちょっとしたことから始まり、エズリンが取り繕うとすると部屋は牙をむき、彼をあざ笑うかのように事態はエスカレートしてゆく。

ホラーは、辻褄が合っていれば強引さが許される。→人気ブログランキング

2015年3月 3日 (火)

古今亭菊之丞を聴く

1月の日曜日に、新潟日報メディアシップで催された寄席に出かけた。
以前、テレビで古今亭菊之丞の落語を聴いて品も艶もある落語家だとすっかり気に入り、生で聴くチャンスをうかがっていた。
独演会の数日前に、コンビニでコード番号を告げると、店員がキーボードを操作し、数分でマルチコピー機からチケットが出てきた。便利になったものだ。

会場に着くと開演40分前だというのに、すでに長蛇の列ができていた。会場の壁は黒と緑と柿色の幕で覆われ、正面の高座には紫色の分厚い座布団が敷かれていて、すっかり寄席らしい雰囲気が漂っていた。
やがて『元禄花見踊り』の出囃子にのって、満面の笑みを浮かべた古今亭菊之丞が登場した。
マクラは落語界の重鎮たちの話。落語は話の内容が決まっているから、マクラでいかに客を惹きつけるかが勝負である。爆笑につぐ爆笑のうちに居酒屋での落語家仲間との話になった。そして、いつのまにか1席目の『親子酒』に入っていた。酒好きの大旦那と若旦那の禁酒の話である。

 

2席目の『太鼓腹』は、ありきたりの遊びに飽きた若旦那が自己流の鍼を始め、幇間を実験台にする話。近くの席に笑いっぱなしのオバさんが数名いて、大声で豪快に笑う。見渡すと大声で笑っているのは女性が圧倒的に多い。女性は長生きするはずだと思った。

15分の仲入りのあとは、菊之丞が俳優としてデビューする話で始まった。
4月にNHKで放映されるピエール瀧主演の『64 ロクヨン』に出演するとのこと。『64』は1964年に起こった幼女誘拐事件が、現在捜査中の事件と絡み、ストーリーの鍵となる横山秀夫原作の警察小説である。嫌味たっぷりの警察庁長官を演じるという。ついに古今菊之丞にとって飛躍のチャンスがやってきたのだ。ささやかながらエールを送りたい。
そして羽織を脱ぎ、3席目の人情話『芝浜』が始まった。凄みはないものの適度に笑わせじわりと泣かせて出来は良かった。
会場には若者が数えるほどしかいない。最近のプチ落語ブームは年配者に支えられている。

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