火花 又吉直樹
主人公の徳永と、彼が師匠と仰ぐ先輩漫才師・神谷との10年間の友好を描いた作品である。
神谷の笑いに対する考えは筋が通った理想論であると徳永は思う。
それを実践しようとする神谷を彼は尊敬した。
第153回芥川賞受賞作。
火花 又吉 直樹 (Matayoshi Naoki) 文藝春秋 2015年 |
笑いに対する神谷の姿勢は次の言葉に表わされている。
〈漫才師である以上、面白いことをするのが絶対的な使命であることは当然であって、あらゆる日常の行動は全て漫才のためにあるねん。だから、お前の行動の全てはすでに漫才の一部やねん。漫才は面白いことを想像できる人のものではなく、偽りのない純正の人間の姿を晒すものやねん。つまりは賢い、には出来ひんくて、本物の阿呆と自分を真っ当であると信じている阿呆によってのみ実現できるものやねん。〉
10年後、自らの理想の笑いを追求し続け落ちぶれてしまった神谷を、徳永は認めようとする。笑いに対する自説を貫くあまり人生を逸脱していく神谷をあくまで受け入れようとする主人公を描くことで、本作は成功していると思う。
本作を「人気漫才師の小説としては」という前置きで論ずる向きがあるが、そうした修飾は無用な文芸作品である。→人気ブログランキング
→『流』東山彰良 第153回直木賞受賞作
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