ボルドー展@国立西洋美術館
ボルドー地区の旧石器時代から現代までを、年代順に紹介している。
安倍晋三首相がボルドー展を鑑賞中に体調が悪くなり、公用車で信号をすべて青にさせて、渋谷区富ヶ谷の自宅に急行したという(『週刊文春』2015年8月27日号)。
本当か?
まずは、旧石器時代(2万5千年前)の『角を持ったヴィーナス(ローセルのヴィーナス)』の浮彫り(レリーフ)が展示されている。
古代人のおおらかさが表れている。日本でいえば土偶にあたるのだろうか。
クロマニョン人によって描かれた有名なラスコー洞窟の壁画がアキテーヌ地区にあり、アキテーヌ地方の中心地がボルドーである。
紀元前1世紀頃に、ワインの産地としてのボルドー歴史が始まる。
この頃、ワインの運搬に使われた陶器(アンフォラ)が展示されている。
音声ガイダンスでは、アンフォラには20リットルのワインが詰められ、その値段は奴隷一人分に相当したという。どう捉えたらいいのか、高価だったといいたいのだろうか。
ルネッサンス期、ボルドーはワインの産地および集積地として大いに栄えた。
また、キリスト教の聖地スペインのサンディアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路の町としても栄えるのである(『星の旅人たち』2010年、エミリオ・エステヴェス監督)。
ところが、12世紀から15世紀までの約300年の間、ボルドー地区はイギリス領になってしまう。
レリーフはイギリス両時代のボルドー市の紋章である。
エレアノール(アリエノール・ダキテーヌ、1122~1204年)は、1137年父ギヨームが亡くなるとアキテーヌ地方を含むフランスの国土1/3を相続し、後見人のルイ6世によりルイ7世と結婚させられた。15歳のエレアノールは父の死から4ヶ月足らず、フランス王妃となった。 1152年にふたりは離婚する。ところが、エレアノールは離婚の後3カ月で、11歳年下のノルマンディー公アンリと再婚してしまう。 その後アンリがイングランド王を継承しヘンリー2世となったことで、アキテーヌ地区を含むフランス国土の半分以上がイングランド領となってしまう。 このことが、後の100年戦争(1337~1453年)の火種になるのである。 |
18世紀、ボルドーは交易とワイン産業を通じて黄金期を迎える。
ボルドーが「月の港」と呼ばれるのは、ボルドー市内で三日月形に湾曲しているガロンヌ川沿いにボルドーが発達したことによる。その繁栄の様子は、展示されている『ボルドーの港と河岸の眺め』(1804~06年、ピエール・ラクール〈父〉)に描かれている。
かつて、ボルドーの5大シャトーのエチケットが同じだったという。
ボルドーに集積されたワインを、ワイン業者(ネゴシアン)が調合して、エチケットを貼って販売したことによるという。
ちなみに、ボルドー5大シャトーとは、1855年のパリ万国博覧会で格付けされたシャトー・ラフィット・ロスシルド、シャトー・マルゴー、シャトー・ラトゥール、シャトー・オー・ブリオンと、18973年の格付けで昇格したシャトー・ムートン・ロスシルド。
ボルドー地区の誇りは、思想・文学の分野に「3M」を輩出していること。
「3M」とは、まずは、ミシェル・ド・モンテーニュ(1533~1592年)。寛容の精神を説いたフランスルネッサンスを代表する思想家で、ボルドー市長も務め、『エセー(随想録)』を執筆している。
次は、シャルル・ド・モンテスキュー(1689~1755年)。絶対王制を批判し『法の精神』で三権分立を唱えた啓蒙思想家。
そして最後は、フランソワ・モーリヤック(1885~1970年)。『テレーズ・デスケルウ』『愛の砂漠』などを書き、1952年にノーベル文学賞を受賞した作家。
ウジェーヌ・ドラクロア(1798~1863年)は、父親がジロンド県知事を務めていたので、子供のころボルドーで暮らした。そのよしみで、政府の要請でパリ万博用に描いた大作『ライオン狩り』(1855年)を、万博のあとボルドー美術館に寄贈したという。ところが不運なことに美術館が火事になり、『ライオン狩り』の上の部分は焼けてしまった。
幸か不幸か、のちに印象派の異端児と呼ばれるボルドー出身のまだ学生だったオディロン・ルドン(1840~1916年)が、『ライオン狩り』を、模写していたのである。これによって『ライオン狩り』の上の部分に何が描かれていたのかがわかる。
大きさがまったく異なるふたつの作品が並んで展示されている。→人気ブログランキングへ
ボルドー展 ー美と陶酔の都ー
国立西洋美術館
2015年6月23日~9月23日
---
国立西洋美術館の常設展にも見逃せない作品がある。
« クレオパトラとエジプトの王妃展@東京国立博物館 | トップページ | 忘れられた巨人 カズオ・イシグロ »
「美術展」カテゴリの記事
- 楽園のカンヴァス 原田マハ(2020.03.16)
- カラヴァッジョ展@国立西洋美術館(2016.06.01)
- 生誕300年記念 若冲展@東京都美術館(2016.05.23)
- 美術館の舞台裏 高橋明也(2016.04.07)
- ガレの庭展@東京都庭園美術館(2016.04.01)
コメント