満つる月の如し 仏師・定朝 澤田瞳子
時は、藤原道長が栄華を極めた平安時代(794~1192年)中期。天賦の才をもつ弱冠16歳の仏師・定朝(じょうちょう)と20歳代にして内供奉(ないぐぶ)の座についた僧侶・隆範(りゅうはん)を中心に繰り広げられる物語。
デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞を受賞した澤田瞳子の第2作目。本作品は、第32回(2013年)新田次郎文学賞、第2回(2012年)本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞した。
タイトルの『満つる月の如し』は、定朝様式の仏像が「尊様満月の如し」と賞賛されたことによる。
満つる月の如し 仏師・定朝 澤田瞳子(Sawada Touko) 徳間文庫 2014年(←単行本2012年) |
七条仏所の棟梁・康尚(こうじょう)の息子・定朝は並外れた技量の仏師と評価されている。隆範は、破損された仏像の顔をたちどころに修理した定朝の技に驚嘆し、延暦寺に安置する薬師如来像の造像を依頼するのだった。
はじめは、固辞する定朝であったが、七条仏所の仏師た定朝の彫る仏像は、見る者に仏の慈悲を感じさせた。
売れっ子仏師となった定朝であるが、大皇太后彰子の念持仏の造仏をよりも、盲の僧侶がいて孤児たちが住み着く貧乏寺の造像を優先したのだった。
隆範は、貧しい民のための造仏を優先した定朝に苛立つ自分を恥じていた。
隆範の後押しもあって、定朝は18歳の若さで仏師として初めて法橋位に就いたのだった。
一方、道長の権謀術数によって皇太子の座を追われた敦明(あつあきら)親王は、鬱憤を晴らすかのように狼藉の限りを尽くし、洛中の貴族たち誰もが恐る存在だった。
そんな敦明の妻が病床に伏すと、妻のための念持仏を彫るよう定朝を恫喝したが、定朝は要求に応じるつもりは到底ない。
やがて敦明を陥れようとする政治的謀略に、定朝と隆範は巻き込まれていくのであった。
奈良仏教史が専門の著者ならではの知識に裏付けられた描写と、多くの人物を登場させることによって生まれるストーリーの奥行の深さにより、読み応えがある傑作になっている。→人気ブログランキング
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