スクラップ・アンド・ビルド 羽田圭介
主人公の健斗は、5年間勤めた車販売の会社を辞め、仕事を持つ母親と介護を要する訳ありの祖父と暮らしている。行政書士資格試験に独学で挑もうとしているが、花粉症がひどくてさっぱり身が入らない。死にたいが口癖の衰えゆく祖父と、再生しようと奮闘する主人公の対比が本作品のテーマ。第153回(2015年7月)芥川賞受賞作。
介護小説といえば、モブ・ノリオの『介護入門』(第131回芥川賞受賞)がある。
![]() 羽田 圭介 文藝春秋 2015年 |
花粉の季節が終わりかける頃から、健斗はやる気が出てくる。まずは、弛緩した体をランニングと独自の筋トレで鍛え始め、勉強にも打ち込むようになる。
定期的に性的関係を持っていた女性と、ちょっとした言い合いのあとデートを拒否されるようになるが、たいして後悔はしていない。
健斗は、老人を辛抱強く見守り、日常生活を自立させることで肉体も脳も鍛えることが、介護の本質と考えている。一方、老人に余計なことを考えさせない、自立を促さない、世話をやき面倒をみることは、老人を弱らせ究極の尊厳死に向かわせるという持論がある。
例えば、電車の中で老人に席を譲らないのは、席を譲らない他の若者たちの理由とは違う。意図的に譲らないのだと、健斗は苛立ちながら若者たちを見つめる。
祖父の88回目の誕生日に現れた姉が、祖父の要求に安易に手を貸すことに怒りを覚える。席を譲らなかったり手を貸したりすることは、行動は同じで結果が同じだとしても、行動理論が違うと健斗は理屈っぽく考える。
健斗のストイックなトレーニングは、厳しさを増していく。
そして、粉飾決算で摘発をされた医療機器メーカーに就職が決まった。健斗は若干不本意であるが、新しい生活に一歩を踏み出すのだった。→人気ブログランキング
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