なぜ、習近平は激怒したのか 高口康太
中国政権を痛烈に批判する風刺漫画を描いたことで、辣椒(ラージャオ 「唐辛子」という意味)は、運営するネットショップを閉鎖せざるを得なくなり生活の糧を奪われた。
さらに、身の危険を感じるようになり、2014年日本に亡命する形となった。
辣椒の中国版ツイッターのカウントは100回以上削除され、もはや中国で風刺漫画をネットに流すことに力尽きたという。
なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由 高口康太 (Takaguchi Kota) 祥伝社新書 2015年 |
右は2012年の台湾総督選挙を、ネット検閲システム「グレート・ファイヤー・ウォール」越しに羨ましそうに見つめる中国人を描いている。
近年の中国情勢を振り返ると、2011年から12年にかけてネット抗議運動や環境デモが集中し、民主化が急速に進むかに見えた。
2012年11月に、習近平に政権交代となると、父親が改革派の習仲勲であり、習近平自身が文化大革命時代に7年間にわたり下放されたこともあって、国民は習近平が民主化に踏み切ると期待した。ところが、習近平は期待を裏切る方向に舵取りを始めたのだった。
まず、汚職の徹底した追求が行われ、習近平体制になってから18万人超の幹部・党員に処分が下されたという。この政策は大いに国民に支持された。
グレート・ファイヤー・ウォールが強化され、政府に不利な発言をしたブロガーは事情徴収されたり収監されたりし、思想統制、言論統制が行われた。いまや、1000万人がネットの監視に参加してるという。
御用ブロガーが要請され、共産党がプロデュースさせたダンスがネットに流れ、勧善懲悪のドラマが流行し、習近平が主人公のアニメが作成され、人民解放軍のアイドルグループがデビューし、ネットという「陣地」を、改革を夢見ていた国民から共産党が奪ってしまった。
教育現場では、大学の講義で話してはならない7項目が通達された。
その内容は、〈普遍的価値を語るべからず。報道の自由を語るべからず。市民社会について語るべからず。市民の権利について語るべからず。中国共産党の歴史的過ちを語るべからず。権力者・資産階級について語るべからず。司法の独立について語るべからず。〉
これでは、文科系の学部では教えることがなくなったも同然である。
著者は、中国人の多くが現状に満足し楽観しているという。明日、すべてが奪われてもおかしくない社会に生きながら、今の小さな幸福に満足し、本当のリスクを見ようとしていないという。もはや民主化の芽は完全に摘み取られてしまった。
さらに、習近平には政敵を蹴落とし、10年と決められている書記長の任期をどうにかして延長し、毛沢東と同等の、いわば「皇帝」の座に就く野望を抱いていると分析している。→人気ブログランキング
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