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2015年12月12日 (土)

村上隆の五百羅漢図展@森美術館

村上隆の美術展が、日本で開かれるのは14年ぶりだという。
外国で評価されているが、日本での評価は毀誉褒貶が相半ばし、未だに日本美術界に完全には受け入れられていないからだろう。

閲覧者は、外国人がちらほら、青年層が多め、美術学校生らしい奇抜な服装の若者がいて、幼児連れの夫婦もいるといったところで、写真撮影可であった。
縦3m×横100mという超大作の『五百羅漢図』に圧倒されたが、なんでまたこんなどデカイものを作ったのだろうという単純な疑問が湧いてきた。

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東日本大震災にいち早く支援の手を差し伸べてくれたカタール政府への謝意を表すために、美大生200人を集めたった3カ月で完成させたという。
3年前、同国の首都ドーハで初披露された。
それにしても100メートルとはどういうことだ。
横山大観の横幅40メートルある『生々流転』の向こうを張ったのだ。

『五百羅漢図」は、中国の古代思想で東西南北を司る四神「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」の名を付けた4つのパートに分かれていて、16人の羅漢や霊獣が大きく描かれ、その周りに大小500人の羅漢たちを配する構図になっている。
羅漢とは、阿羅漢(あらはん)の略で、「修行を完成した尊敬するに値する人」「悟りを得た人」のことである。
釈迦の弟子で特に優れた16人の弟子を16羅漢と呼び、五百羅漢とは,初めての経典編集に携わった弟子たちのこと。『五百羅漢図』はありがたい作品なのだ。
村上の五百羅漢図像を、ピカソの『ゲルニカ』に匹敵する作品と持ちあげるのは、森美術館の館長だが、いくら何でも買いかぶりすぎだと思う。

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異能の日本人絵師たちについて美術史家・辻惟雄が書くエッセイに対し、村上が呼応する形で作品を製作する「絵合せ21番勝負」が『芸術新潮』に連載された。それらの作品も展示されていた。
異能の絵師とは、狩野永徳(↑)、伊藤若冲、葛飾北斎、曾我肅白、鳥居強右衛門、井上有一、荒川修作、赤塚不二夫など。辻惟雄と絵師たちにインスパヤーされて、村上が作品を作るというものだった。

2001年1月、村上が企画した「スーパーフラット展」が、ロサンゼルス、ミネアポリス、シアトルを巡回し、一大センセーションを起こした。
そして、2002年5月には、ニューヨークの老舗オークション会社クリスティーズにおいて、「ポストウォー&コンテンポラリーアート」部門のオークションで、村上隆の『HIROPON』に38万ドル(4860万円)の値がついた。『HIROPON』は、自らの母乳で縄跳びをする裸同然の美少女フィギュアである。

こうしてブルドーザーのような村上は世界に出て行ったのだが、〈おたく文化を劣化コピーして外国に売っている売国奴〉と、おたくたちに叩かれた。村上の登場で、おたくたちは、おたく文化が外国で高く評価されることを知った。しかし、彼らが育んできた聖なる文化を「おたく」ではない「ヤンキー」の村上が、あれこれやるのが気に食わなかいのだろう。村上が「おたく」でないバリバリのヤンキー気質だから問題なのだ。

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パクリの観点から村上の作品を観ると、『DOB』はミッキーマウス、『HIROPON』はセーラームーン、『マイ・ロンサム・カウボーイ』はドラゴンボール、『五百羅漢図』は水木しげるの妖怪たちを彷彿とさせる。そのほかハクション大魔王に出てくるキャラクターもどこかにいるはずだ。
とはいってもパクリでないアートなんてそうそうないだろう。
アートは、インスパイヤーやら模倣やらパクリやらを、追放したら成り立たない。やった者勝ちなのだ。

村上を世界は大いに認めているのだから、日本美術界はそろそろ寛大な応対をしてもいいのではないかと思う。

村上隆の五百羅漢図展
2015年10月31日(土)〜2016年3月6日(日)
森美術館(六本木ヒルズ森タワー 53階)

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