巨大化する現代アートビジネス ダニエル・グラム&カトリーヌ・ラムール
緻密なフィールド・スタディと何人かのキーパーソンに対するインタビューをもとに、現代アートビジネスの現状をおよそ余すところなく伝えている。
1998年に、クリスティーズが、それまで戦後からとされていた現代アートの境界線を、1960年代から現代までと定義した。これにより、若手のアーティストを前面に押し出すことができ、市場が活性化したという。ある意味で、この定義付けが現代アートビジネスを象徴している。市場が活性化するなら、定義すら変えてしまうという姿勢である。ビジネスから見た現代アートは、もはや投機の対象や資産の隠し場所でしかないのかもしれない。
作品を買い上げ倉庫に保管しておいて、高値が付きそうな頃合いを見計らってオークションにかける。アーティストを無視したことが、平然と行われているのが現状である。
巨大化する現代アートビジネス ダニエル・グラム&カトリーヌ・ラムール/鳥取絹子 訳 紀伊國屋書店 2015年 |
名のあるアーティストのまわりには彼を支える星雲のような一群がいて、それはギャラリーであり、コレクターであり、一部の美術館やメディアからなっているという。
つまり互助機能が働く集団ということであろう。
変化し続けるアートの世界を、先頭集団の100人が牽引している。
彼らはメガコレクターであり、大画商であり、中には美術館の学芸員やアートフェアのディレクターや展覧会のコミッショナー、アートアドバイザーや批評家もいる。重要なのは「彼らはアートの世界で力を持っている」ことであるという。
イギリスの『アート・レヴュー』誌ではアート業界で最も影響力のある100人「パワー100」を、アメリカの『アート・ニューズ』誌では200人のトップコレクターの人名録を発表している。
社会学者アランクマンは次のように語っている。
評価を守るためには、幻想を維持しなければならない。売れなくなれば、下支えする。何をするのかはさておき、先頭を走るアーティストの凋落は阻止しなければならないのだ。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館の元館長の現代アートを取り巻く環境を危惧するインタビューが、切実である。
美術館がだせる金額では、 いまのトップアーティストの作品を買うことは不可能である。それほど値段が釣りあがっているということなのだ。
中国市場が活発な理由は、中国人アーティストの作品を、中国人が評価し購入するという内向きの流れが出来上がっているからである。
また、芸術大国フランスの凋落について解説している。原因は国の政策の立ち遅れにあった。
こうしたアートの世界を、すでに1世紀も前に、マルセル・デュシャンが指摘している。つまり、「我々には貨幣に代わるものが沢山ある。貨幣としての金、貨幣としてのプラチナ、そして今や貨幣としてのアートだ!」→人気ブログランキング
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