ヨイ豊 梶よう子
黒船来航以来、日本国中が浮足だち徳川幕府の屋台骨が揺らいでいた。
浮世絵(錦絵)の世界も大きな曲がり角にさしかかっていた。そんななか、三代目歌川豊国が亡くなり、画号の相続をめぐり入り婿の清太郎は苦悩する。
第154回(2016年1月)直木賞候補作。
ヨイ豊 梶 よう子 講談社 2015年 |
名所の歌川広重、武者の国芳、そして似顔の三代豊国。歌川の三羽烏と呼ばれた三人は同時代に活躍したが、すでに、広重、国芳が亡くなり、さらに豊国を失ったいま、誰が歌川を率いていくのか。版元たちも弟子たちも固唾を飲んで見守っている。
清太郎は真面目が取り柄。画力がありそこそこ売れるのだが、これぞとういう光るものがない。絵を描く力は修練である程度上達するが、見る目は天賦の才であり、清太郎にはそれがないことを自覚しているのだ。
清太郎の一回り下の八十八(やそはち)には、誰もが一目置くずば抜けた画力がある。ところが、兄弟子であろうと師匠であろうとずけずけものを言う。住む所も女房もころころ変える落ち着きのなさ。それに、版元や役者と平気で喧嘩するような男だが、憎めない性格ときている。
版元も弟子たちも清太郎が豊国を継ぐことを願っている。豊国一門の安泰のためという大義の要素が色濃い。鷹揚な性格の妻でさえ、いつまでたっても煮え切らない清太郎をせっつくのだった。それを百も承知の清太郎は、悩みに悩みぬくのだ。
江戸末期から明治にかけての変わり目の時代に、やがて消え去る運命の浮世絵師たちの生き様を描く力作。最後のたたみかける短い文章の連続は、激動の時代に生きる人々の息遣いを感じさせる。→人気ブログランキング
【絵師が主人公の歴史小説】
『北斎まんだら』梶よう子 2017年
『眩(くらら)』朝井まかて 2016年
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『ヨイ豊』梶よう子 2015年
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『北斎と応為』キャサリン・ゴヴィエ/2014年
『フェルメールになれなかった男』フランク・ウイン 2014年
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