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2016年2月23日 (火)

与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記 澤田瞳子

著者は、デビュー作『弧鷹の天』で中山義秀賞、『満つる月のごとし』で新田次郎賞を受賞した。『若冲』は、第153回(2015年1月)直木賞候補になった。
資料に基づいた緻密な時代背景のもとに描くダイナミックな群像劇を得意としている。
時は奈良時代。天候不順による飢饉も太宰府で起きた乱も御仏の加護なきゆえと、聖武天皇は国家鎮護のための巨大な盧遮那仏を造ることを命じた。その大仏造像の造仏所の炊屋(かしきや・食堂)を舞台に繰り広げられる物語である。
Image_20201126090801与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記
澤田 瞳子
光文社
2015年

近江国から徴発されて来た真楯(またて)、石見出身の小刀良(ことら)、美濃出身の鮠人(はやと)たちは、人望の厚い仕丁頭の猪養(いぬかい)のもとに配属される。
炊男(かしきおとこ)宮麻呂が作る飯は旨い。この旨い飯が食えるから、仕丁たちは辛い労働をなんとか我慢できようというもの。
造仏にはおよそ300人が関わっていて、良民の下に奴婢がいる。宮麻呂は飯と汁の残りを奴婢たちに与えているのだ。

何の役にも立たない仏像の泥型の破片を盗んだ奴婢の舎薩(しゃさつ)は、盗んだ理由を吐かない。舎薩は仏像に何かを託している「山を削りて」。
僧に生臭物を食べさせたと密告の文が投げ込まれた。宮麻呂の料理が旨すぎて、やっかみを買ったのだった「与楽の飯」。
紛失した銅棹が陸奥出身の乙虫の褥の下から出てきた。濡れ衣を着せられたのだ「みちの奥」。
ケガで療養中の鮠人は、強欲な老婆に幼き日に育てられた祖母の面影を見いだそうとする「媼(おうな)の柿」。
自暴自棄に陥った小刀良が海千山千の奴婢と脱走した「巨仏の涙」。
写経僧たちのヒエラルキーの悲哀を描いた「一字一仏」。
仏教と距離を置こうとする宮麻呂の出自が明らかになる最終章の「鬼哭の涙」。

大仏を必要とするのは、庶民や造仏所で働く者たちではない。過酷な労働とは無縁の貴族たちや仏教に入れあげた仏僧たちある。
宮麻呂は真楯に「仕丁の務めは何か知っているか」と問う。「盧遮那仏を造り上げること」と答える真楯に、宮麻呂は「仕丁の務めはただ一つ、労役を終え無事に生きて故郷に帰ることだ。人を救うのは人だ」と説く。→人気ブログランキング

月人壮士(つきひとおとこ)/中央公論新社/2019年
落花/中央公論新社/2019年
秋萩の散る/徳間書店/2016年
師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録/徳間書店/2015年
ふたり女房 京都鷹ヶ峰御薬園日録/徳間文庫/2016年
京都はんなり暮らし/徳間文庫/2015年
与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記/光文社/2015年
若冲/文藝春秋/2015年
満つる月の如し 仏師・定朝/徳間文庫/2014年
泣くな道真 ―太宰府の詩―/集英社文庫/2014年

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