さあ、あなたの暮らしぶりを話して アガサ・クリスティー
アガサ・クリスティは、1930 年に高名な考古学者マックス・マローワンと2度目の結婚をした。本書は、夫のシリアへの3度にわたる古代遺跡発掘調査に同行したさいの日々の暮らしを、ミステリ作家としてではなく、マローワン夫人として綴った回想記である。1944年に脱稿し戦後に出版されたが、70年経った今も生き生きと感じられる。
さあ、あなたの暮らしぶりを話して アガサ・クリスティー 深町眞里子 訳 ハヤカワ文庫 2004年 |
砂嵐やゴキブリやネズミそして蚤や南京虫に閉口する生活でも、イギリス人らしく3度のお茶は欠かさない。
最初、アガサは「格子縞の毛布と日記帳」しか持ち合わせず、むっつりとして寡黙な建築技師と打ち解けようと話しかけるが、そっけなくあしらわれる。人間らしさか感じられないと敬遠するが、その鈍感さこそが砂漠で生きて行く上での才能だと理解するようになる。
シリア人、アルメニア人、クルド人、アラブ人、トルコ人と多様な人々が、様々な宗教を信じている。そうした発掘人夫たちはしばしばいがみ合い、仕事ぶりは気まぐれである。
モスリムの、いずれ死ぬのだからそれが早くなるか遅くなるかだけという価値観ゆえに、他人の死に対して驚くほど無頓着である。死に対してもとびっきりのいいことも、「インシャッラー!」の一言で片付けてしまう。
郵便局届いた書き留めの為替を現金化するのに一苦労である。ほかの西洋人に宛の手紙を持っていくようにとの要請は断る。あれやこれやの書類を書かせ、時間を引き伸ばされ、挙句に郵便局に現金がないからバザールで調達するという。こうしたことが、書き留めが届くたびに繰り返されるのだ。
アガサは医療の知識があると思われていて、鎮痛剤や眼科用のホウ酸水を分けてもらうめに、シーク(部族長)が妻たちを連れてくる。アガサは作家になる前に薬局に勤めていたので薬に明るい。
さて、いよいよ発掘品を分割である。すべての発掘品をマックスが2つに分けて、シリア側の代表がそのうちの一つを選ぶのである。残った半分は大英博物館に梱包され送られる。シリア側が選んだ半分のうち特に興味深いものがあれば、通常、シリア側の好意により貸与されるという方法がとられていた。
シリアを後にして著者が思い出すのは、陽気であけっぴろげで卑猥な冗談を言うクルドの女たちや、フサフサヒゲを赤く染めたシークのこと、そして暮らしを共にして友情を育んだ隊員たちのことである。
仮に、アガサが今のシリアをはじめとする中東の惨状を目の当たりにしたならば、どんな言葉を発するのだろう。→人気ブログランキング
『ねずみとり』1950年
『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』1946年
『そして誰もいなくなった』1939年
『アクロイド殺し』1926年
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