ダロウェイ夫人 ヴァージニア・ウルフ
1925年に発表されたヴァージニア・ウルフ(1882〜1941)の代表作。
「ミセス・ダロウェイはお花はわたしが買ってくるわ、と言った。」という有名なフレーズで始まる。ミセス・ダロウェイが自宅で開くパーティのために花を買いに家を出たのは、第一世界大戦(1914年〜1918年)が終結して5年が経った、6月半ばの晴れやかなロンドンの朝のこと。
ダロウェイ夫人 ヴァージニア・ウルフ/丹治 愛 訳 集英社文庫 2007年 |
主人公のクラリッサ・ダロウェイは51歳になったばかり、クラリッサの夫リチャードは保守党の国会議員。
ミセス・ダロウェイという存在は、ミセス・リチャード・ダロウェイというだけの存在、つまり妻は男の付属物でしかないとクラリッサは不満を抱いている。
クラリッサは、反抗的な14歳のひとり娘エリザベスに頭を痛めている。つまり、それは若かりし頃のクラリッサ自身であるわけだが。。
エリザベスの家庭教師ミス・キルマンが、クラリッサに敵愾心を持っていて、クラリッサもミス・キルマンを嫌っている。ミス・キルマンは異常なほどの信仰心をもっている。始末が悪いことに、エリザベスはミス・キルマンに憧れている。
ミス・キルマンの存在は、宗教に束縛されたくないあるいは無宗教という、クラリッサの意思の暗喩である。
30年前に、クラリッサの家で過ごした夏の日々を、登場人物たちが回想する。1890年代の初期、夏のブアトンことだ。
ピーター・ウォルシュはクラリッサにべた惚れだった。ところが、最終的にクラリッサを心を射止めたのはリチャード・ダロウェイ。ピーターはリチャードのせいでクラリッサと結婚できなかったと思っている。
その夏、クラリッサは自由奔放なサリーに憧れレスビアン的な関係にもなっていた。
レイディ・ブルートンの昼食会や、大戦によるPTSDで苦悩するセプティマスが飛び降り自殺を図るエピソードが挟み込まれる。
そして、予定通りに、ロンドンの名士たちが集い、ピーターもサリーも出席するパーティが始まる。
物語はパーティのための花を買いに行くという晴れやな始まりが、自殺という不吉な話題で終わろうとする。それは、まるで、クラリッサに熱烈に恋をして振られ、インドに行き失敗してしまったピーターの人生のようでもある。
めまぐるしく視点が変わる文体で、多彩な登場人物たちの心象を通して、ロンドンのある濃厚な1日が描かれている。→人気ブログランキング
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