死んでいない者 滝口悠生
葬儀がはじまってから夜中過ぎまでの、「死んでいない」親族たちの言動をユーモアを交えて、三人称多視点と神視点から描いている。
第154回(2016年1月)芥川賞受賞作。
85歳で亡くなった故人には5人の子どもがいて、親族はひ孫を入れると総勢30人ほどになる。故人の妻はすでに亡くなっている。
10月の晴れた日。暑くもなく寒くもない、いい季節に死んでくれたと何人もが口にする。
死んでいない者 滝口 悠生 文藝春秋 2016年 |
親戚たちの略歴が説明され、また会話の中で語られる。血縁関係がところどころで挟み込まれるが、そんな話を聞いて「誰が誰だか全然かわんねえよ」と、祖父の幼馴染みが故人の三男にいった言葉は、この小説のテーマを象徴する。著者は鼻から読者に誰が誰のなにに当たるかを、わからせようと考えていない。
何しろ〈誰が誰の子どもで、誰と誰が兄弟なのか、もはや親戚のごく一部しかわからないし、当人たち同士さえ年の離れたいとことおじおばとの区別がつかない。〉という状況なのだ。大人数の親戚が集まるとこんなものだろう。
遠方すぎて都合がつかなくて来れない奴もいて、離婚して行方不明の奴もその妻だった女の話も出る。まともな奴はまともじゃない奴を、まともな奴から見た基準で選別したりする。
葬式に集まった親戚たちの普通にありそうな有様を描いた作品。→人気ブログランキング
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