京都ぎらい 井上章一
洛中の京都人は中華思想に似た選民意識をもっている。
京都の嵯峨で育ち今は宇治で暮らす著者には、京都人の自覚はないという。洛中のひとは著者を、京都流で言えば「よそさん」と思っているという。
こうした京都人の選民意識は他の都市にも多少はあるだろうが、京都はえげつないくらいに露骨にそれを表に出す。
![]() 井上章一 朝日新書 2015年 |
日本の碩学である洛中出身の杉本秀太郎や梅棹忠夫も、洛外を見下していたという。
ところが、嵯峨は確かに洛中から外れているが亀岡ほどじゃないと、〈京都人のいやらしい偏見を縮小再生産させたようなおごりが、著者にないわけではない〉と語っている。著者はこのような表現を多用している。
同和や民族差別などの重い差別は社会の表面から見えないが、ハゲやデブを見下す言葉は溢れている。罪が軽そうなのでかえって溢れていく。京都における嵯峨や宇治は、ハゲやデブに当たるとする。
「物知り自慢の気(け)」があると自嘲しつつ、自説を展開する。
本能寺に逗留していた信長が明智光秀に襲われた本能寺の変から、寺は今のホテル業を兼ね備えていた。そこで客をもてなすための庭園美学も磨かれたと推論する。
精進料理の肉もどき料理はホテルのレストラン部門のアイディア商品であるとする。
冒頭で、著者は京都人の自覚はないと言っておきながら、七は「しち」ではなく「ひち」であるとこだわる。「上七軒(かみひちけんの)」ルビを「ひち」とするか「しち」とするかで、本書の編集人にかみついている。そのバトルの痕跡が69頁に書かれている。→人気ブログランキング
→ にほんブログ村
京都まみれ/井上章一/朝日新書/2020年
京都ぎらい 官能編/井上章一/朝日新書/2017年
京都ぎらい/井上章一/朝日新書/2015年
関西人の正体/井上章一/朝日文庫/2016年
京都はんなり暮らし/澤田瞳子/徳間文庫/2015年
« 眩(くらら) | トップページ | ウェブ小説の衝撃 ネット発ヒットコンテンツのしくみ 飯田一史 »
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 批評の教室ーチョウのように読み、ハチのように書く 北村紗衣(2021.09.19)
- 大人のお作法 岩下尚文(2017.11.08)
- 東京藝大 最後の秘境 天才たちのカオスな日常 二宮 敦人(2017.08.28)
- 京都ぎらい 井上章一(2016.04.30)
- 日本を席巻するキラキラネーム(2015.11.17)
「歴史」カテゴリの記事
- 超訳 芭蕉百句 嵐山光三郎 (2022.10.01)
- 「京都」の誕生 武士が造った戦乱の都 桃崎有一郎(2021.11.13)
- アフリカで誕生した人類が日本人になるまで(新装版) 溝口優司(2020.11.11)
- 感染症の日本史 磯田道史(2020.11.04)
- 京都まみれ 井上章一(2020.08.07)
「旅行」カテゴリの記事
- 表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 若林正恭(2018.06.12)
- モーターサイクル・ダイアリーズ エルネスト・チェ・ゲバラ(2017.01.26)
- あをによし奈良東大寺(2016.05.27)
- 京都ぎらい 井上章一(2016.04.30)
- 長野温泉 嵐溪荘(2015.06.02)
コメント