アメリカ最後の実験 宮内悠介
主人公の櫻井脩は、ジャズの名門〈クレッグ音楽院〉の入試試験を受けるため、アメリカ西海岸にやって来た。脩には、母親と自分を棄てた父親の俊一を探す目的もあった。
アメリカ最後の実験 宮内 悠介 新潮社 2016年(→2019年 文庫) |
試験は、音楽院が開催するジャズ・フェスティバルに飛び入りで演奏するというもの。このコンペティションは学校側の宣伝も兼ねていた。
一次試験に合格した脩は、同じく合格したマフィアの跡取り息子ザカリーとスキンヘッドの心優しい大男マッシモに出会う。
脩の前に、かつて俊一と同居していた先住民の女・リューイが現れ、父が使っていたシンセサイザー〈パンドラ〉を渡される。〈パンドラ〉はブルーノート・コードを弾けるように改造されていた。
俊一は、売春婦でヘロイン中毒だったリューイを椅子に縛り付け、禁断症状が出るとピアノを弾いた。音楽に人を救う力があるか試すと言って。そしてリューイを救った。
3人は、遠距離バスに乗り込み、二次試験に向かう。
試験会場で音楽院の学生証を持った男の死体が発見され、「アメリカ最後の実験」とホワイトボードに書かれていた。その学生証の人物は俊一が親しくしていた人物であった。
そして、「第二の実験」と書き残す殺人事件が起こり、「第三」「第四」と全米で連続殺人事件が起こる。
実業家のヨハン・シュリンクが先住民の保留地で企てた「アメリカ最後の実験」とは、終末世界の市場調査であった。心を老いさせるには、絵や音楽といった芸術が介入する余地のない世界を作り出せばいいというものだった。俊一の行動はこれに抗するものだった。
アメリカは実験国家である。白人が先住民を殺戮し入植していった。アフリカから連れてきた奴隷がジャズを生み出し、物が溢れる社会ができ上がった。
アメリカの歴史と音楽論を重層的に絡めながら、物語の後半が形作られていく。→人気ブログランキング
彼女がエスパーだったころ/講談社/2016年4月
アメリカ最後の実験/新潮社/2016年1月
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