獣の奏者1闘蛇編 上橋菜穂子
「闘蛇」と「王獣」という架空の獣を登場させ、それを軸に壮大なファンタジーを繰り広げる、著者の発想力と筆力に脱帽する。
エリンの母は闘蛇を死なせた責任を負って、獣ノ医術師としての職を解かれ処刑されることになった。母は〈霧の民(アーリヨ)〉である出自や、死んだ夫とのことを娘のエリンに話した。
母は縛られて重りをつけられ野生の闘蛇がうようよいる沼に投げ込まれた。
エリンは短刀を懐に沼に潜り母の縄を切った。野生の闘蛇が襲ってくるはずだが、母は掟を破って操蛇の指笛を吹いたのだった。
エリンは闘蛇にまたがって逃げた。
獣の奏者 1闘蛇編 上橋菜穂子 講談社文庫 2009年 |
蜂飼いのジョウンは湖畔で身体中に傷を負ったエリンを助けた。
〈霧の民(アーリヨ)〉の緑の目をしたエリンと暮らすことは、災難を背負うことになるかもしれないことを承知の上だ。
かつて王都の高等学舎で教導師長だったジョウンはエリンの聡明さに舌を巻いた。
王宮が無防備でいられるのは、ひとえに大公(アルハン)が代々、多大な犠牲を払ってリョザ神王国を守ってきたおかげだというのが、大公の口癖だ。真王(ヨジエ)の臣民どもは、武人を血で穢れた成り上がりと思っているが、近隣の国々から蹂躙されずに、これまで平穏な暮らしをしてこられたのは大公を筆頭とする武人のおかげなのだ。
あえて穢れた闘蛇を操り、身を血で汚し国をまもり富ませてきた。そのおかげで真王はその手を血で汚すことなく、清浄な森の奥に鎮座しておられるのだ。
それゆえ、大公領民は真王国から派遣されてくる官僚たちや、貧しいくせに気位ばかり高い真王領の臣民たちに、血で穢れ征服した国々と血を交えたとして見下されることに不満を感じていた。この不満から生まれたのが〈血と穢れ(サイ・ガルム)〉という集団である。真王こそ国を分裂させ、発展を滞らせている元凶である主張し真王を弑し大公を王位につけることが、リョザ真王国を繁栄に導く道であると信じていた。
一方、新王の臣下の中から武芸に秀で忠義に厚い者を選んで、真王を守らせた。これが〈堅き楯(セ・ザン)〉のはじまりである。
真王(ヨジエ)は、母から娘へと伝えられていく位である。
真王ハルミヤの60歳の誕生日の祝いに、大公と長男シュナンが参じた。真王に献上される王獣16頭の中に幼獣が1頭混じっていた。
王獣の檻が進むとき、木の上から矢が放たれ幼獣をかすめ傷を負った。幼獣は治療のためカザルム王獣保護場に引き取られた。
14歳となったエリンは、カザルム王獣保護場の〈入舎ノ試し〉を受けて合格した。ジョウンの同僚だった教導師長のエルサは、エリンに傷ついた幼獣の世話を任せらることにした。
衰弱しきった幼獣に、エリンは肉を食べさせようとあれこれ試し、食べさせることができた。そして、エリンは他の人間ならば音無の笛を吹いて眠らせなければ近づけない幼獣リランを、笛なしで手なずけてしまったのだった。
王獣や闘蛇は政治的な動物。王獣や闘蛇に関わることは、その国の政治に関わること。幼獣を手なずけたことで、エリンは真王と大公の政治的綱引きに、関わらざるをえなくなっていく。→人気ブログランキング
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