« 2016年8月 | トップページ | 2016年10月 »

2016年9月

2016年9月22日 (木)

ミスター・メルセデス スティーヴン・キング

霧が煙る早朝、市民センターで催される就職フェアの開場を待っていた行列に、メルセデス・ベンツが突っ込み、8人の死亡者と多数の負傷者を出す事件が起こった。
担当刑事だったビル・ホッジスは定年退職し、事件は迷宮入りとなっていた。
凶器となったメルセデスSL500は、市の高級住宅地に建つコンドミニアムに住むミセス・トローニーが所有していたもの。ミセス・トローニーは路上駐車したさいに、鍵をかけ忘れてはいないと主張したが、警察もマスコミも彼女を疑っていた。
そして、ミセス・トローニーは巨額の遺産を妹のジャネルに残し、高齢の母親をおいて自殺してしまった。犯人が彼女を自殺に追い込んだのだ。

Image_20201123082501ミスター・メルセデス
スティーヴン・キング
白石 朗 訳
文藝春秋
2016年
Image_20201123082601ミスター・メルセデス
スティーヴン・キング
文藝春秋

妻と離婚し娘が出ていった家で、ひとりで暮らすホッジスは自殺を考えたりもした。ある日、ホッジスのもとにメルセデス・キラーと名乗る男から、挑戦状ともとれる手紙が届く。それで、ホッジスは俄然、生きる張り合いができた。

「同じことをまたやりたいなんて気持ちがこれっぽっちもない。一回やれば充分なんだ」と手紙には書いているが、メルセデスで味をしめた犯人は、前より大規模な人殺しを企てるはずだと、ホッジスは踏んでいた。

ミセス・トローニー亡きあと、コンドミニアムで暮らす妹のジャネルの依頼もあって、ホッジスはメルセデス・キラーを捕まえようと動き出す。私立探偵の免許を持たない退職刑事が、事件を捜査することは違法行為法だが、そんなことで躊躇していられない。

犯人は、退職刑事の行動を行動心理学者も顔負けの緻密さで分析していた。それというのもホッジスをつぶさに観察していたからだ。
犯人の正体は早々と明らかにされる。犯人はフレイディ・ハーツフィールド、家電量販店の店員で、コンピューターのトラブルを出張して解決するサイバー・パトロールを担当していた。さらに、もうひとつの仕事を持っていて、移動販売車で町をゆっくり巡回するアイスクリーム・マンでもあった。

ホッジスは、ハーバード大学へ進学する予定の黒人高校生のジェロームと、ジャネルの従姉妹で抗うつ剤レクサプロを服用する40歳過ぎのホリーの協力を得て、いかれた犯人を洗い出す。

キングはホラーのイメージが強いが、本書はホラーっけなしの長編ミステリ。もちろん、本書にはキングが得意とする「下品ネタ」もそこかしこに散りばめられている。
「訳者あとがき」によると、本書はアメリカのミステリ小説の最高峰であるエドガー賞(長編部門、2015年)を受賞した。さらに、本書に登場したホッジス、ジェローム、ホリーのトリオが活躍する、第2作『Finders Keepers』(2015年)、第3作『End of Watch』(2016年)が、アメリカですでに刊行されベストセラーになっていて、間もなく日本語訳が発刊されるという。大いに楽しみだ。→人気ブログランキング

ファインダー・キーパーズ
ミスター・メルセデス
ジョイランド
11/22/63
ダークタワー IV1/2 鍵穴を吹き抜ける風
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 下
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 上
ダークタワー III 荒地 下
ダークタワー III 荒地 上
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 下
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
書くことについて
ミザリー
キャリー   キャリーDVD
幸運の25セント硬貨
ビッグ・ドライバー
1922
第四解剖室
神々のワード・プロセッサ
夕暮れを過ぎて
いかしたバンドのいる街で
スタンド・バイ・ミー(DVD)
ジェラルドのゲーム
ドランのキャデラック

2016年9月13日 (火)

女には向かない職業 P.D.ジェイムズ

共同経営者のバーニイが癌を儚んで自殺してしまったので、弱冠22歳のコーデリア・グレイは、「プライド探偵事務所」を一人でやっていかなければならなくなった。
火葬場から事務所に戻ると、使いの女性が待っていて、ロナルド卿がコーデリアに直接会って仕事を依頼するかどうか決めたいという。息子のマークが自殺した理由を調べて欲しいという。
この辺りまではあっさりと話が進むが、マークの4人の友人が出てきてから、話が広がり複雑になっていく。
Photo_20210519080801女には向かない職業
P.D.ジェイムズ/小泉喜美子
ハヤカワ・ミステリ文庫
1987年

大学生だった21歳のマークは、突然、大学を退学した。
コーデリアが退学した理由を指導官に電話で訊ねると、わからない、問題のない学生だったとの答えであった。
退学したあと、マークはマークランド少佐の広大な《サマーツリーズ》邸で、庭師として働いていた。庭に放置してあったカテージに住んでいた。
そして首を吊った状態で死んでいるのを発見されたのだ。警察は自殺として片付けた。

コーデリアがカテージの周りを捜索すると、雑誌の女のヌード写真を丸めたものが雑草の中から出てきた。マークは偏執的に几帳面できれい好きだったと思われるが、鋤を手入れせず、仕事用の靴を脱ぎっぱなし、コーヒーカップは洗っていない、シチューを作っていた鍋はストーブに乗ったまま。自殺を考えている者が、食べるつもりもない料理を用意するだろうか。

コーデリアは、カテージに泊まることにした。
その前に、愛車のミニでケンブリッジへ行って、新聞社で事件の記事を調べ、マークの友人に会い、警察で担当刑事に会う予定を立てた。時間があったので、ケンブリッジを観光した。なんという余裕だ。
コーデリアにはタフな理由がある。すでに亡くなった父親は旅回りのマルキシスト詩人でアマチュア革命家。父親はしょっちゅう争い事の渦中にいた。そんな親の近くで育ったのだ、コーデリアはタフにならざるを得なかった。
彼女はバーニーが遺した38口径の拳銃を携え、愛車のミニを乗り回し、身に降りかかる火の粉を物ともせず、ひた向きに真相に迫っていく。

本作は事件の全貌が明らかになってからも山場がある。
コーデリアはスコットランドヤードに呼び出され、事件について尋問される。この尋問で、バーニイの上司だったスコットランドヤードの警部は、コーデリアの受け応えから、バーニイとの付き合い方が間違っていたことを思い知るのだった。→人気ブログランキング

2016年9月 2日 (金)

かぜの科学 もっとも身近な病の生態 ジェニファー・アッカーマン

人間は一生の間に200回ほど風邪をひくという。成人なら年に1〜2回、小児なら10回以上だ。
著者は、風邪に関する文献を渉猟し、風邪の研究者たちに直接インタビューし、時にはホテルで缶詰になり、スプレーで風邪ウイルスを鼻に噴霧する人体実験に参加し、あるいは風邪に効くとされる市販薬やグッズや、お婆ちゃんのチキンスープなどの民間療法に言及し、風邪の全容を明らかにしようとする。
Image_20210107190601かぜの科学:もっとも身近な病の生態
ジェニファー・アッカーマン/鍛原多恵子
ハヤカワNF文庫
2014年

アメリカでは、病院の年間外来患者数のうち風邪の患者はのべ1億人にもなる。風邪で緊急治療室に搬送される患者は150万人を超え、欠勤日数はのべ数億日にもなり、経済損失は推定年間600億ドルに上る。

アメリカの子どもたちでは、風邪の罹患率は他の病気すべてを合わせたより高く、のべ1億9800万日もの学校欠席につながっている。
平均的な生徒は風邪で11日間学校を休む。これは欠席理由の半分に近い。
風邪が子どもたちの間では、学校が始まる夏の終わりから秋のはじめに流行するということは、現在よく知られている(日本の事情とは異なる)。学校が始まって17日すると呼吸器感染症がピークを迎え、通常の4〜5倍となる。人々はバカンスに行ってウイルスを持ち帰り、それを子どもたちが友達全員と共有するわけである。

著者が参加した治験では全員がウイルスに感染したが、発症したのは75%、残りは無症候性感染だった。別の実験では、同じ屋根の下で暮らす夫婦間で風邪がうつるのは全体の30〜40%だったという。
信じがたいほど風邪に強い人がいる一方で、誰かがくしゃみをするのを見ただけで風邪をひく人がいるのはなぜだろう。この無症候性感染が理由のひとつである。

1950年代、イギリスのCCU(コモンコールド・ユニット)のデイヴィッド・ティレルは、人間の鼻が一番ウイルスの増殖に適していると考えた。培養器の温度を33℃に下げると、ウイルスの培養に成功した。のちに、鼻(rhinoラテン語)を好むことから、ライノウイルスと名付けた。

風邪の原因には少なくとも200種の異なるウイルスが関与する。
その風邪ウイルスには少なくとも5つの属がある。ピコルナウイルス(ライウイルスを含む)、アデノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、インフルエンザウイルスだ。

ウイルスによって居心地の良い場所が異なる。ライノウイルスは鼻咽喉、パラインフルエンザウイルスは声帯と気管、呼吸系シンチウムウイルスは肺の末梢気道を、インフルエンザウイルスは肺そのものを好む。ただし、インフルエンザウイルスが軽い風邪の症状のこともあれば、ライノウイルスが重症な肺症状を出すこともある。感染した場所、宿主の状態などの要素によるのだ。
空気感染するインフルエンザは、風邪と別の病気と考えたほうがいい。

風邪ウイルスが鼻に侵入してから、増殖を完了し新しいウイルスが鼻の分泌物内に放出されるのに、早くとも8〜12時間かかる。くしゃみと鼻汁の分泌は感染から12時間以内に始まり、48〜72時間のあいだにピークを迎える。

ライノウイルスは空気感染もするが、多くの場合、直接感染である。
私たちの大半は、無意識のうちに5分に1〜3回も顔を触る(1日に換算すると200〜600回)。この癖によって風邪ウイルスが鼻孔に侵入するのだ。風邪の予防は手洗いの励行である。

風邪をひいている人の鼻粘膜の生検を行ったところ、上皮細胞にはまったく傷がついていなかった。風邪の諸症状はウイルスに対する身体反応の結果である。ウイルスが侵入すると、体が一連の炎症過程を起こし始める。こうした炎症プロセスによって、ウイルスが撃退あるいは破壊される一方で、私たちは苦痛を強いられるのだ。風邪の症状は、サイトカイン産生と抗ウイルス反応によるのである。
換言すれば、風邪の症状を起こすのは、ウイルスではなく私たちの免疫機構である。

抗生物質は細菌が細胞壁を作ることを阻むことで細菌を殺す。ウイルスは細胞膜を持たないので、抗生物質は風邪にまったく効かない。殺菌効果をうたう石鹸、シャンプー、ローションが風邪の病原体に効果を持たない理由でもある。
それでもアメリカ疾病予防管理センター(CCD)によれば、風邪に抗生物質が出される処方箋は年間4000万件超という、適正さを書いた凄まじい勢いで、抗生物質は風邪患者に処方される。なぜか?
医学校では、患児の親には「これはただの風邪ウイルスです」と告げ、患者を家に返すように教えられる。しかしそうすると親たちは不満である。そこで医師は効く保証もない治療法を提供し始める。

ありふれた病気である風邪に対するワクチンや薬ができないのはなぜか?
ひとつは、何日かすれば治ってしまう風邪を、医療界全体が軽くみてきたこと。
もうひとつは、風邪を起こすウイルスの数が多く、さらにウイルスは簡単に変異を起こす。風邪があまりにも多数の病原体によって起きるために、現在までワクチンが完成していないことによる。→人気ブログランキング

« 2016年8月 | トップページ | 2016年10月 »

2022年5月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ