傷だらけのカミーユ ピエール・ルメートル
本作は、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの『悲しみのイレーヌ』『その女アレックス』に続く完結編。著者は前半でいくつかの布石をさりげなく打っていて、それらが後半に効いてくる。読み終わったあと、布石を確かめようと、つい読み返したくなる。
パリのショッピング・アーケードで、女が宝石店に押し入ろうとする強盗に出くわし暴行を受けた。女を狙って3発の銃弾が発砲されたが、運がいいことにいずれも外れた。強盗は宝石を手に入れ、女は顔に傷を負い前歯が折れ病院に運ばれた。
女は、パリ警察殺人課のカミーユ・ヴェルーヴェン警部の恋人アンヌだった。
5年前の妻の死からやっと立ち直ったカミーユにとって、アンヌは心の支えである。
前作『悲しみのイレーヌ』で、シリアル・キラーによって、カミーユの妻イレーヌは出産の寸前に殺されている。
![]() ピエール・ルメートル /橘明美 文春文庫 2016年 |
カミーユはタレコミ情報があって犯人をすぐに逮捕できると、上司に嘘をつき、強引に事件を担当した。カミーユは数日で犯人を逮捕すれば、違反行為がうやむやになるだろうと踏んでいた。カミーユにとって運が悪いことに、気心が知れた部長が警視長に昇進して、桁違いに肥った厳格でキレ者のミシャール女史が直接の上司になったばかりだった。140センチの身長のカミーユとは、対象的な体格である。
この事件の前に、1日に4店の宝石店が連続して襲われていて、犯人は逮捕されていなかった。カミーユは、前の事件と手口が似ていることから、今回の事件も同一犯の仕業とみていた。
カミーユがアンヌのアパルトマンに行くと、誰かが入った気配がした。アパルトマンの状況を、ミシャール部長には報告できない。いまさらアンヌの恋人ですとは言えない。カミーユはじわじわと窮地に追い込まれていく。
アンヌの話では、犯人の1人はセルビア語で話していて、もう1人は訛りのないフランス語で話したとのこと。カミーユは主犯はアフネルと確信した。アンヌの写真識別の結果も、犯人のひとりはアフネルだった。
カミーユは、共犯のセルビア人からアフネルの居場所を聞き出そうと、署員を総動員してセルビア人の一斉捜査を敢行するが、思惑は外れた。ミシャール部長に人種差別捜査を行ったと指摘され、カミーユは署内で孤立した。
アンヌの命を狙って犯人がアンヌの病室に現れた。カミーユは病院からアンヌのを連れ出し、母親がアトリエとして使っていた家にアンヌを匿った。
カミーユがやっていることは、もはや懲戒処分だけでは済まない犯罪行為である。
カミーユはアンヌと関わることで、署内の立場がどんどん危うくなっていく。これこそが、犯人の仕組んだ罠である。こうして、カミーユは犯人に追い詰められていく。→人気ブログランキング
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