« 『ふぉん・しいほるとの娘』上 吉村 昭 | トップページ | 関西人の正体 井上章一 »

『外来種は本当に悪者か?』フレッド・ピアス

人類が地球を痛め続けている今、外来種の力を借りながら新しい自然(ニュー・ワールド)を構成していくしかないというのが、著者の主張である。
ここ半世紀余り、環境保護主義者は固有種とその生態系を守り、押しよせる外来種を阻止しようと努力してきた。しかし環境保護とうたいながら、その実、根底にあるのは単なる差別意識であり、移民排斥運動にも似た、外来種嫌いの感情論ともとれるような内容であった。原理主義といってもいいほどだ。

外来種は本当に悪者か?: 新しい野生 THE NEW WILD
フレッド・ピアス/藤井留美 訳
草思社
2016年7月

環境保護主義者は、外来種は在来種を絶滅させ、生物多様性を低下させると唱える。
その背景には、次のような考えがあるという。生態系は調和をとって動いている機械のようなもので、すべての在来種が食べたり食べられたり、受粉したり、廃棄物を処理したりと、それぞれの役割をつつがなく果たしている。生態系は在来種だけで完成された状態にあって、侵入者が入り込む余地はない。だから外来種が定着すれば、その分在来種が居場所を失うことになる。生態系から押し出された在来種は、その場所から消えていくしかない。

アセンション島(西大西洋に浮かぶイギリス領セントヘレナ諸島のひとつの島)、ハワイ島、オーストラリア、北アメリカについて紹介し、孤島や新大陸に人間が持ち込んだ動植物は、その地にとっては外来種であったが、結果的には、生物の多様性が育まれていったという。この事実に対し、環境保護主義者は関心を抱くどころか、見て見ぬ振りをしているという。

侵入生物を目の敵にする学者のデータの使い方は、古臭く詰めが甘いという。彼らの主張を追いかけていくと、曖昧さ、引用の誤り、根拠のない主観的な解釈、具体例からの強引な一般化、局所から地球全体への無茶な飛躍がこれでもかと出てくると指摘する。
基本的に、外来侵入種の90%はすぐに姿を消し、悪さをするのは残りの10%前後である。侵入者が危険だと騒ぎ立てることも、外来種の侵入は防ぐべきだとする結論も、科学ではなく科学の皮を被った神話創作だと強調する。

「手つかずの自然」「前人未踏の自然」をありがたがるが、アマゾンのジャングルもアフリカの奥地の森林にも、先住民の暮らした痕跡が発見されている。
森は数百年もすれば完全に再生し、老齢林か二次林か区別がつかなくなる。森以外の生態系も同じことが最近の研究でわかってきた。人類が破壊した自然は二度と蘇らないという主張には根拠がない。早ければわずか数十年で大部分が蘇るのだ。
自然が一定の状態を続けることはまずない。ダイナミクスこそが重要であるのに、研究者は長い間そのことを否定してきた。

気候変動が進む世界では、老齢林をはじめとする歴史ある自然、つまりオールド・ワールドは、人間の介入に頼らないと存続できなくなる。
動植物の多様性が失われつつある今は、あるものでやっていく、やりたいようにやらせる、自分の足でしっかり立つ、それがいずれニュー・ワールドとなる。外来種はときとして生態系復活の切り札にもなりうるという。

6度目の大絶滅/エリザベス・コルバート/NHK出版/2015年
サイボーグ化する動物たち/エミリー・アンテス/白揚舎/2016
外来種は本当に悪者か?/フレッド・ピアス/草思社/2016年
爆発的進化論/更科功/新潮新書/2016年
ゲノム編集とは何か?/小林雅一/講談社現代新書/2016
がんー4000年の歴史/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016
破壊する創造者ーウイルスが人を進化させた/フランク・ライアン/早川NF文庫/2014
生物と無生物のあいだ/福岡伸一/講談社現代新書/2007
人はどうして死ぬのかー死の遺伝子の謎/田村靖一/幻冬舎文庫/2010
できそこないの男たち/福岡伸一/光文社新書/2008
二重らせん/ジェームス・ワトソン/講談社文庫/1986年

« 『ふぉん・しいほるとの娘』上 吉村 昭 | トップページ | 関西人の正体 井上章一 »

生物学」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『外来種は本当に悪者か?』フレッド・ピアス:

« 『ふぉん・しいほるとの娘』上 吉村 昭 | トップページ | 関西人の正体 井上章一 »

2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ