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2016年10月14日 (金)

叛逆航路 アン・レッキー

ネヴュラ賞・ヒューゴー賞をはじめとする7冠に輝く話題作である。
遠未来の銀河系が舞台。人間は銀河系に広く居住している。
巻末に用語集あり。

本作にはユニークな設定がふたつある。
そのひとつは、ラドチ圏に暮らす人間のラドチャーイは性差を気にしないので、三人称単数は「彼女」が使われる。ところがラドチャーイ以外と会話をするときは、性を意識せざるを得ない。主人公のブレクがそのことを気にするあまり、言葉の選択に迷う場面がときどきあるのが面白い。
もうひとつのユニークな点は、レヴューの最後に記載する。
Image_20201109121201叛逆航路
アン・レッキー/赤尾秀子
創元SF文庫
2015年

ブレクが、極寒の惑星にある酒場の近くに倒れていたラドチャーイのセイヴァーデンを助けるところから、物語ははじまる。セイヴァーデンは1000年前に死んだと思われていた。

アナーンダ・ミアナーイは、約3000年前から現在に至るまでラドチ圏を支配している皇帝である。
人間のふりをしているブレクの正体は、約2000年前に建造された戦艦〈トーレンの正義〉の装備のひとつであるAI・属躰(アンシラリー)である。
約1000年前、17歳のセイヴァーデンが、〈トーレンの正義〉の副艦長として着任した。やがて〈ナスタスの剣〉の艦長に昇進し転出したが、惑星ガルゼットの呑併さいに〈ナスタスの剣〉は破壊され、セイヴァーデンは行方不明となった。

今から19年前に〈トーレンの正義〉が、全乗組員ともに行方不明になる事件が起こった。
現在と19年前の出来事が交互に継ぎ目なく語られ、ストーリーは進んでいく。
はじめのうちは、腐れ縁で仕方なく一緒に行動するブレクとセイヴァーデンだったが、徐々に友情が芽生えていく。もちろん、わたし・ブレクからみたセイヴァーデンは、彼女である。

ラドチが併呑した属国との関係、ラドチの文化、家系による優遇、ラドチャーイのヒエラルキー、ブレクが仕えた副艦長の死、アナーンダの専制統治に対する不満、反乱・惨殺事件などが描かれている。
そして、ブレクがアナーンダに復讐しようとする理由は何かが、徐々に明らかにされていく。

ユニークな設定のもうひとつは、ブレクの素性は属躰(アンシラリー)と呼ばれるAIであり、複数で自我を共有している集団人格である。かつてブレクは20の体をもっていた。ラドチ圏を支配するアナーンダも何千もの体をもち、同時に何百か所にも存在すると設定されている。
ということは、アナーンダもブレクと同じようにAIなのだろうか?という疑問が浮かんでくる。しかし、解決されないまま物語は終わる。
謎は続編の『亡霊星域』『星群艦隊』にもちこされる。→人気ブログランキング

『星群艦隊』
亡霊星域
叛逆航路

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