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2016年11月 2日 (水)

ジャーニー・ボーイ 高橋克彦

ヴィクトリア朝時代(1837年~1901年)に活躍した英国の紀行作家イザベラ・バード(1831年~1904年)の著書『日本奥地紀行』をもとに、物語が作られている。主人公はバードに随行した通訳の伊藤鶴吉である。

明治11年(1878年)5月14日、内務卿大久保利通が不平士族に暗殺される(紀尾井町の変)という、未だ攘夷の気運がくすぶる不安定な国情の頃、バードは伊藤を従え、東京からから日光、日光から会津坂下を通り津川へ抜けて新潟まで行く。
『日本奥地紀行』ではそのあと北上し北海道に渡るが、本書では新潟までが描かれている。
あえて描かれる冒頭の「紀尾井町の変」の惨状は、攘夷派残党のバード襲撃がありうることを暗示している。

Bc7be50275df480f85232b6d7e53b684ジャーニー・ボーイ
高橋克彦
朝日文庫
2016年

大倉喜八郎と東京日日新聞主筆の岸田吟香、外務省の役人が、寿司屋の2階で伊藤を吟味する。伊藤は、上野にある政府御用達の西洋料理屋・精養軒の外国人担当という設定。小柄だが腕っ節が滅法強く、その昔ピストル・ボーイというあだ名がついていた。

日本政府としては、表向きは護衛なしで女性の一人旅ができる安全な国を、世界にアピールしたいところ。役人は、バードは50近いばあさんだから、ろくに歩けもしないだろうとたかをくくっていた。実際は47歳だった。

そんな政府の思惑とは裏腹に、世界各地への冒険旅行で頑強な体になっていたバードは、能天気そのもの。旅の目的は、東京や横浜などの洋風にかぶれた都市を見ることではなく、日本の原風景を体験し、それをもとに旅行記を書くことだという。

バードの話し相手は伊藤に限られている。
伊藤はバードに訊ねた。「ろくな食べ物もない、宿は蚤だらけで、見るべき史跡もない、きつい道で痩せた馬にゆられ尻が痛くなる。こういう旅を本当に楽しいと思うのか?」
「楽しいわよ。誰も見たことのない景色を私が一番最初に眺めるんですもの」と、バードは答えた。
ふたりの間には異文化のせめぎ合いの火花が散ることもたびたびある。
それは主に、男女同権の兆しが見えはじめた国の女性と、男尊女卑の風潮が色濃く残る国の男性との意見の対立であった。

日光の金谷邸に1週間逗留したバードは、厚遇され、この上なく満足した。
会津には、攘夷派の士族だった警察官が大勢いる。会津坂下から津川に抜ける箇所が、もっとも危険である。津川にたどり着けば、あとは新潟まで阿賀野川の舟下りだからなんとかなる。
さて、刺客や警察官たちの不穏な影がちらつくなか、バードと伊藤は津川を経由して新潟に向かおうとする。→人気ブログランキング

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