彼女がエスパーだったころ 宮内悠介
擬似科学を容易に受け入れてしまう人間社会の危うさがテーマ。事件を追いかけるジャーナリストの「わたし」が俯瞰的視点で語る。
著者の多岐にわたる豊富な知識、奔放な発想力、そして卓絶な表現力に脱帽である。
彼女がエスパーだったころ 宮内悠介 講談社 2016年 |
「百匹目の火神」The Biakiston Line
火を使うことを人から教えられたニホンザルの能力が、猿たちの間に広がっていき、猿による放火事件が起きた。空き巣のあと、火をつけたのだ。
猿たちは日本各地で集団放火事件を起こす。共時性の願いが伝播した現象と説明された。
人々は猿を殺傷したが、ニホンザルは天然記念物である。法律が障害となり対策は後手に回った。ある日、雨が止むように猿の放火が終焉する。
「彼女がエスパーだったころ」The Discoveries of Witchcraft
スプーン曲げで有名になった千晴は、大学の物理学教授と結婚した。
ところが、千晴の不在時に夫が非常階段で足を滑らして転落死した。超能力者とされた千晴に疑いがかかり、魔女狩りの事態にまで発展する。
「ムイシュキンの脳髄」The Seat of Violence
バンドのリードボーカルの網岡はなにかにつけ逆上した。
同棲相手で、同じバンドのベース担当のかなえは、網岡に対するオーギトミーに反対した。手術後、天使のように変わってしまった網岡に、かなえは違和感を感じた。そして、網岡はかなえと別れ郷里に引退した。オーギトミーの普及に努める医師を批判するフリージャーナリストが殺害される。
「水神計画」Solaris of Words
放射能汚染水に「ありがとう」と声をかければ浄化される話。(→「水からの伝言」と同じだ)
「薄ければ薄いほど」Remedy for the Remedy
ごくごく薄めてしまえば毒も薬になるというホメオパシーの疑似科学性が暴露される。
「沸点」The Budding Point
世の中を変えるには、一部の人たちが変わればいい。ある人数の人々が変われば、それが転換点(ティッピング・ポイント)となって、世の中は変わるという。→人気ブログランキング
彼女がエスパーだったころ/講談社/2016年4月
アメリカ最後の実験/新潮社/2016年1月
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