現代美術コレクター 高橋龍太郎
著者は精神科開業医。現代アート、特に日本人作家の作品のコレクターである。
ひりつくような同時代感覚を作家と共有できること、これが現代アートを購入するときの喜びであると、著者はいう。
著者の現代アートとの出会いは、草間彌生の追っかけからはじまった。
現代美術コレクター 高橋 龍太郎 講談社現代新書 2016年 |
著者は自らのコレクションについて、
〈バブル崩壊後の日本という比較的アートに買い手がつかなかった時代背景のなか、購入してきた高橋コレクションは、ある程度、日本の現代アートの概要を示すものになっている気持ちもある。〉と書いている。
それゆえ、これまで、日本国内で計3回、「ネオテニー・ジャパン」(2008〜10年)、「マインドフルネス!」(2013〜14年)、「ミラー・ニューロン」(2015年)と銘打って、高橋コレクション展が行われてきた。各展覧会の名称は著者が命名している。
日本の現代アートのキーワードは、ネオテニー、職人的技巧、なぞらえ(ミラーニューロン)、貧、一瞬の美、だという。ネオテニーとは、発生学上の幼形を保ったまま性的に成熟してしまう現象のこと。
日本は美術展に集まる観客は非常に多いが、美術品の購入となると低調であるという。
現代アートの買い方で絶対損しない方法は、1作品あたり、国際価格で500万円以上、できれば1000万円以上が必要だという。金を持っていないなら、手を出すなということだ。
毎年、1万5千人くらいが、美術学校や美術の専門学校を卒業する。10年後も100年後も作品に値がちゃんと付くのは、そのうちの1人くらい。日本では作品を売るだけで食べていけるアーティストは、せいぜい50人くらいだという。
国の文化予算の低さ、現代美術に対する理解のなさ、現代美術を購入している美術館の少なさ、日本のアートシーンの風通しの悪さ、つまり、日本画、洋画、現代アートという奇妙な分け方、が日本の現代アートの発展を阻んでいるという。
日本の現代アートにコレクターとして関わっている著者の視点は、愛情に満ちていると同時に、日本の現代アートの抱える問題点を的確に分析し、有効な処方箋を示しているように思われる。→人気ブログランキング
『現代美術コレクター』高橋龍太郎 2016年
『"お金"から見る現代アート』小山登美夫 2015年
『巨大化する現代アートビジネス』ダニエル・グラム&カトリーヌ・ラムール 2015年
『現代アート経済学』宮津大輔 2014年
『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』長谷川祐子 2013年
『現代アートを買おう!』宮津 大輔 2010年
『現代アート、超入門!』藤田令伊 2009年
『現代アート入門の入門』山口裕美 2002年
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