亡霊星域 アン・レッキー
舞台は、遠未来の銀河系。前作の『叛逆航路』nの内容をかいつまんで紹介すると、
いまや、惑星間国家ラドチが人類世界の大半を支配している。ラドチは従わない惑星を武力で併呑することを繰り返し巨大化してきた。併呑された惑星民にとって、ラドチに対する遺恨の念は拭いきれないものとなっている。
ラドチ圏を3000年前から支配する絶対皇帝アナーンダ・ミアナーイは、何千もの肉体を持ち、ラドチ圏のあらゆるところに存在している。それが、穏便な方のアナーンダとそうでない方のアナーンダに分かれ、敵対しはじめたのだ。
![]() アン・レッキー 赤尾秀子 訳 創元SF文庫 2016年 |
主人公のブレクは、2000年前の兵員母艦〈トーレンの正義〉で、あまたの属躰を統率する立場にあったAIであり属躰でもあった。20年前の事件で、〈トーレンの正義〉の属躰はブレクはひとりになった。
属躰とはラドチが侵略した惑星の人間にAIをインプラントし戦闘用に改造したものである。
ブレクの正体を知っているのは、前作で極寒の地で行き倒れになっていたところをブレクが助けたセイヴァーデンだけである。セイヴァーデンは生まれもいいし、気品も備わった艦長にふさわしい人物であると、ブレクは評価している。
本作は、艦隊指揮官の立場にあるブレクが、〈カルルの慈(めぐみ)〉の艦長として、辺境の地アソエクの星系に赴任するところからはじまる。ブレクは、セイヴァーデン副官と新米副官のティサルワットを従えている。ブレクはティサルワットの不手際を強引な方法で修正させた。
ところで、ラドチ圏の特徴的な習慣として、ラドチーナは男女の区別はなく、ジェンダーを意識しない。三人称の呼称は「彼女」が用いられる。性別の意識がないかわりに、人種や家系や階級、宗教や社会的地位などによる差異が、きわだっている。礼儀をわきまえているとかそうでないとか、上下関係によって起こる感情の齟齬が、重大事として扱われるのである。
前作でオマーフ宮殿での暴動事件の後、星系間ゲートは封鎖され軍艦以外は星系の外に出ることも情報のやりとりもできない状況になっている。
600年前にラドチに併呑されたアソエクの星系には、4つの星系間ゲートがあり、ひとつは無人の星系に続くゴーストゲートである。
アソエクはステーションと呼ばれるドームで囲われた緑と湖がきれいなガーデンと、それを支えるアンダーガーデンから構成されている。
ブレクは下層民の居住地区アンダーガーデンに宿泊して、下層民の窮状を知ろうとする。→人気ブログランキング
アソエク星系に以前から駐留している軍艦〈アタガリスの剣〉の艦長は、艦隊司令官のグレクに従わざるをえないことが大いに不満なのだ。
大茶園主に不当な労働条件を強いられる労働者や、不当な扱いをうける下層民の生活を改善しようと、ブレクは行動するのだが、反発を買うことになる。また有力者の子弟が起こした性的虐待が、思わぬ事故に発展する。
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