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『煙がにしみる 火葬場が教えてくれたこと』 ケイトリン・ドーティ

米国シカゴ大学でヨーロッパ中世史を専攻した22歳の女性が、サンフランシスコの従業員が数人の葬儀社に就職し、火葬技師として1年間勤務した。葬儀社を退職した後、葬儀学校で学び、葬儀ディレクターの資格を獲得する。その後、いくつかの葬儀社に勤務して経験を積んでいった。
死や遺体を扱うことがテーマなので、勢い暗くなりがちなところ、持ち前の果敢なチャレンジ精神と物事に真摯に取り組む姿勢により、陽気で説得力のある内容となっている。

煙が目にしみる : 火葬場が教えてくれたこと
ケイトリン・ドーティ
池田真紀子 
図書刊行会 2016年8月 ✳︎7

死は人間にとって、もっと身近なものであるはずというのがテーマ。
土葬には、大地が遺体を包み込み遺体を浄化してくれるという、人びとの願いが込められている。土葬が禁じられる州が出てきて、自然への畏敬の念が薄れてきた。米国の火葬率は年々増え続けているとはいえ、まだ3割程度である。

著者の、最初の仕事は、70代男性の遺体の髭を剃ること。もちろん、それまで男性の髭を剃ったことなどなかった。さらに、遺体の胸部に埋め込まれたペースメーカーを取り出す作業や、遺伝病で亡くなり大学病院で長期間保管されていたホラー化した女性の火葬などを経験していく。
なぜか、カリフォルニア州法では、遺族に引き渡されるのは原型を残した遺骨ではなく、砕かれた骨粉と定められている。遺骨は火葬の最終プロセスで粉骨機にかけられる。といったような、日常からひどくかけ離れた世界が待ち受けていた。

こうした経験から著者が訴えているのは、人間の死の自然なあり方だ。
人間は死んだ瞬間から腐敗がはじまる。〈何も処置いない遺体の顔は醜い。少なくとも、私たちの社会のきわめて不寛容な期待からすれば、観るのがつらい光景だ。まぶたは力なく垂れ、どこか遠くを見つめたままの眼球は時間とともに濁っていく。口はエドヴァルド・ムンクの『叫び』のごとく大きく開かれている。顔には血の気らしきもはまるでない。〉
遺体を生きているかのようにエンバーミングを施し化粧を加え、死を美化する風潮をそろそろ見直すべきではないかと、著者は訴える。遺族が遺体を洗い清め、死出の旅支度を整える作業を通して、変化していく死体を目の当たりにする。そうすることで残された人々は、大切な人を失った現実と向き合えるのではないかと訴える。

こうした考えに基づき、2015年に、著者は故人の生前の希望にかなった葬儀など多様なニーズに応える葬儀会社「Undertaking  LA」を設立した。また、マスコミを通じて死や葬儀に関する様々な情報を提供している。なお、YouTubeには、「Ask A Mortician」というチャンネル名で、数多くの動画がアップロードされている。

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