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『アルバート、故郷に帰る』ホーマー・ヒッカム

大恐慌が始まって6年が経った頃の話。
バスルームで炭鉱夫のホーマーはワニのアルバートに食いつかれ、パンツ姿で逃げ回った。ホーマーと妻のエルシーは、アルバートをウェストヴァージニアの炭鉱町から、1000キロ以上離れた生まれ故郷のフロリダに運んで自然に帰すことにした。
ワニはエルシーが付き合っていたダンサーのバディが、結婚祝いに贈ったもの。送られてきたときは15センチだったが、2歳になったいま、1.2メートルに成長し、これからも大きくなる。アルバートは嬉しいときは「ヤーヤーヤー」と声を出し、寝転がってクリーム色の腹をエルシーに撫でてもらうのが好きだ。

アルバート、故郷に帰る 両親と1匹のワニがぼくに教えてくれた、大切なこと (ハーパーコリンズ・フィクション)
ホーマー・ヒッカム
金原瑞人・西田佳子 訳
ハーバーコリンズ・ジャパン 2016年9月

ふたりは、ピックアップトラックの荷台にバスタブを積んで、そこにアルバートを乗せフロリダに向かった。途中で、なぜか雄鶏がホーマーとアルバートを気に入り、旅に加わった。

かつて、ホーマーは高校を卒業するエルシーに求婚したが断られた。エルシーは高校を卒業すると町を出て、金持ちの叔父さんが住んでいるフロリダで暮らした。やがて故郷に戻ってくると、ホーマーの求婚を承諾した。エルシーはバディに未練があった。
ホーマーは2週間で故郷に戻るつもりだが、エルシーは夫がなんと言おうと町には戻らないと決めた。そんなギクシャクした夫婦は、大いに道草をしながら南に向かう。

道草する理由は、エルシーの誰からも受け入れられる気さくな性格と、規格外れの好奇心にある。
エルシーは靴下工場の労働者の先頭に立ち経営者とわたりあったり、ホーマーは銀行強盗に巻き込まれアルバートに助けられたり、詩人の老紳士とムスリムの美女に騙されたり、エルシーは密造酒の運び屋の妻にさせられ警察とカーチェイスをしたり、双翼の飛行機に乗せてもらったり、ホーマーはプロ野球の選手になり、アルバートは球団マスコットに収まり、エルシーは球団オーナーの付き添い看護婦になったりする。さらに、ハリウッドで、ふたりとアルバートは映画に代役として出演したり、ホーマーは漁師になったり、そしてフロリダに着くと、ホーマーは鉄道監視員の仕事に就いた。

はたして、アルバートはフロリダでの安住の地を見つけることができるのか。ホーマーの思い通り、ウェストヴァージニアに戻ることができるのか。なによりも気になるエルシーとホーマーの仲はどうなるのか。

ところで、スタインベックとヘミングウェイの文豪が登場する。
スタインベックは、書き進めている小説のタイトルを、エルシーが提案した『怒りの葡萄』にすると宣言する。本をエルシーに捧げると言ったことになっているが、『怒りの葡萄』の献辞を調べると、残念ながらエルシーの名前はない。→人気ブログランキング

母親のエルシーから聞いた話を、著者の息子が書き綴った形をとっている。
エルシーが話を面白くするために、多少「盛っている」かもしれないと、著者は書いている。小説家になりたかったエルシーのことだからは、ストーリーを面白く仕立てたかもしれない。訳者は「21世紀になって、これ以上面白い小説は書かれていないのではないか」と評しているが、フィクションであるにせよ実話であるにせよ、本書が抜群に面白いことに違いはない。

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