夫のちんぽが入らない こだま
テレビで、今やベストセラーとなった本書のタイトルが「あり」か「なし」かという討論をやっていた。出版に際しこのタイトルでは売れないという出版社内部の意見があったが、あえて踏み切ったという。本書は、著者が同人誌に書いた同名のエッセイを私小説にしたもので、タイトルをそのままにした賭けは大正解となった。番組での小説自体の評価はいたって好評だった。
早速、本屋で探したが見当たらない。店員に声をかけるのは憚れられたので、アマゾンに注文したら翌日に届いた。
本書を読んでいるときに「なに読んでいるの?」と不意に訊かれても、タイトルがたやすくバレない気配りがされた装丁になっている。この堂々としていないところが、小説の内容とマッチしていていい。
主人公は、大学時代から同棲していた1学年上の男性と結婚した。
夫は高校の教師、主人公は小学校の教諭になった。夫とのセックスは、はじめからうまくいかなかった。何度試みても入らない。この「夫のちんぽが入らない」問題をずっと引きずっていく。
夫のちんぽが入らない こだま 扶桑社 2017年 |
夫は風俗に通い家ではポルノビデオを観ていたが、自分に負い目を感じている主人公は見て見ぬふりをし、結婚4年までは平穏だった。
受け持ったクラスが学級崩壊し、精神的に追い詰められた頃から、歯車が狂いだした。
主人公は崩壊したクラスを立て直すことができず、精神的に限界に達し退職した。
日記サイト(実は出会い系サイトだった)で知り合った男たちとつきあい、不思議なことに、その男たちとのセックスはうまくいった。
身体の節々が痛くなり、自己免疫疾患と診断され、薬物治療がはじまった。
子どもの頃からの母親との確執は解決されず、自殺を考えるような心境に追い込まれてしまう。
やがて、夫がパニック障害となり「やる気の出る薬」を飲みはじめた。
夫との間に性的な関係はまったくなくなった。
夫との出会いから20年経った今、大学生の時に周りから言われたように「兄妹のような関係」で、暮らしていくことになったところで終わる。
子どもを産もうと医療機関を訪れたにもかかわらず、「ちんぽが入らない」ことを医師に相談しなかったのは納得がいかないが、筆の力でねじ伏せられてしまう。
本書は、学資保険を勧める保険外交員と母親に言いたいことで、締めくくられている。〈私は目の前の人がさんざん考え、悩み抜いた末に出した決断を、そう生きようとした決意を、それは違うよなんて軽々しく言いたくはないのです。人に見せていない部分の、育ちや背景全部ひっくるめて、その人が現在あるのだから。それがわかっただけでも、私は生きてきた意味があったと思うのです。〉
普通でない夫婦の奮闘記である。→人気ブログランキング
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