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2017年4月

「99分、世界美食めぐり」

5人の美食ブロガーが、世界各地の星つきレストランをめぐるドキュメンタリー。主人公はレストランや作り手ではなく、あくまで食べ手のブロガーである。
有名ブロガーの食べることに対する考え方や、一流シェフたちの仕事へのこだわりが語られる。食ブロガー必見の映画

99分,世界美味めぐり [DVD]
原題:FOODIES
監督:トーマス・ジャクソン  シャーロット・ランデリウス  ヘンリック・ストッカレ
製作:スウェーデン 2014年  99分  ✳︎✳︎✳︎✳︎

スティーヴ・プロトニキ ブログ
音楽のレーベルの元オーナー。
インタビューで店に対し辛口のコメントを発するのは、料理の世界を変えてやるという野心を持っているからだと、大言壮語する。料理は芸術だと力説する。
ニューヨークを拠点にしている。シェフ泣かせの辛口ブロガー。

アンディ・ヘイラー  ブログ
コンピュータのソフトウェア開発で財をなした。ロンドン在住。
ミシュランの三ツ星レストラン109店すべてを食べ尽くした人物。
世界一のカレー料理を求めて、ムンバイの店を探索する。

アイステ・ミセヴィチューテ ブログ
エストニア出身。パリを本拠地にモデルとして活躍している。
日本では、菊乃井(京都)、寿司はせがわ(六本木)を紹介した。
料理を口にする彼女には、修行僧のような鋭利で静謐な雰囲気が漂う。

パーム・パイタヤワット ブログ
シェークスピアを研究しているという。タイのぼんぼん。
ハーフパンツで軽やかに動き回り、日食生活を十分に堪能している感じがする。
食への説得力は今ひとつだ。

ケイティ・ケイコ・タム ブログ
普通のOLと紹介されている。
香港で両親と暮らしていて、自分の給料だけでやっているという。
ニューヨークでは、タイトなスケデュールで1日に複数の店を回る。厨房の中を案内されVIP扱いにご満悦のようである。まだ美食生活に慣れていない様子。

登場するレストランは以下の29店舗、✳︎はミシュランの格付け。

マエモ(オスロ)✳︎✳︎、 ピエール・ガニェール(パリ)✳︎✳︎✳︎、フェ―ヴィケン(エステルスンド スウェーデン)、41°(バルセロナ)、アルサック(サンセバスチャン)✳︎✳︎✳︎、ノーマ(コペンハーゲン)✳︎✳︎、ゼラニウム(コペンハーゲン)✳︎✳︎、イレヴン・マディソン・パーク(ニューヨーク)✳︎✳︎、鮨さいとう(東京)✳︎✳︎✳︎、都寿司(東京)、神保町 傳(東京)✳︎✳︎、菊乃井(京都)✳︎✳︎✳︎、フロコンド・セル(ムジューヴ)✳︎✳︎✳︎、響○軒(マカオ)、アンバー(香港)✳︎✳︎、ボー・イノベーション(香港)✳︎✳︎、龍井草堂(中国 杭州)、ヘドネ(ロンドン)✳︎、サチュルヌ(パリ)、ジヤ(ムンバイ)、シェリー・ターカル・ボージナーラヤ(ムンバイ)、ボラン(バンコク)、ダニエル(ニューヨーク)✳︎✳︎、バー・セ(ニューヨーク)✳︎✳︎✳︎、ル・バーナディン(ニューヨーク)✳︎✳︎✳︎、マレア(ニューヨーク)✳︎✳︎、モモフク・コー(ニューヨーク)、ムガリッツ(サンセバスチャン)✳︎✳︎、 マルティン・ベラサテギ(サンセバスチャン)✳︎✳︎✳︎

食ブロガーに対して、店側の本音は宣伝になるから取り上げて欲しい、ただし悪評は書いては困るという単純なもの。
店は有名ブロガーに対してその影響力を恐れ、他の客とは別格の扱いをすることになる。無料での料理の提供や厨房の中を案内したり、シェフにインタービューしたりする特権が与えられる。そうした扱いを、拒否しようとするブロガーもいれば、受け入れるブロガーもいるだろう。そのあたりのことは、『グルメの嘘』(友里征耶 新潮新書)に詳しい。

最後に、登場したフーディーズたちの体型であるが、3人の若者たちは問題ないが、ふたりの中年男の二重顎とだぶついた腰回りは、複数の生活習慣病を抱えていそうだ。今や、美食家が肥っているというのは説得力に欠ける。→人気ブログランキング

99分、世界美食めぐり』DVD  2014年
美食の世界地図 料理の最新潮流を訪ねて』山本益博  竹書房新書 2014年
二郎は鮨の夢を見る』DVD
エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』DVD  2011年
グルメの嘘』友里征耶  新潮新書 2009年

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』 ジョン・ロンソン

著者はネットリンチにあった人物やネットリンチを仕掛けた人物に直接会って話を聞いている。
過去には、犯罪者に手かせ足かせをして晒し者にする、という公開羞恥刑が各国に存在したが、およそ180年前に廃止された。ところが、最近SNSの普及で公開羞恥刑が復活しているという。著者は、ネットリンチを公開羞恥刑というキーワードで解明しようとする。

まず著者は自らの経験を披露する。
著者はツイッターの成りすましに悩まされた。犯人の3人と面会し、そのやりとりをYouTubeにアップロードしたところ、犯人たちに対する非難が寄せられ、成りすましが止んだという。3人の職業はネットに関する研究者だった。著者はこのエピソードで、ソーシャルメディアは攻撃される武器にもなるし、身を守る武器にもなることを知ったという。

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち (光文社新書)
ジョン・ロンソン/ 夏目大 訳
光文社新書  2017年2月

著名なノンフィクション作家のベストセラー本に、出典がはっきりしないボブ・ディランの言葉がいくつかあると指摘された 。けっきょく捏造だった。そのほか他人のブログからの盗用もあった。
捏造の暴露記事が発表されるや、ジャーナリストはネットで徹底的に叩かれ、雑誌『ニューヨーカー』のスタッフライターの職を辞さざるをえなくなった。そして、彼はキャリアも地位もすべてを失った。

ネット企業の広報部長である白人女性が、イギリスからアフリカに向かうトランジェントで、人種差別的なツイートを流した。「アフリカに向かう。エイズにならないことを願う。冗談です。言ってみただけ。なるわけない。私、白人だから!」
ファーストクラスに乗っていると書いたことも反感を買ったのかもしれないが、彼女はネットリンチにあい、職を失い社会的に抹殺された。
攻撃する者にとって、 彼女が本当に特権階級であるかどうかはどうでもいい。実際、彼女は特権階級でもなければ、人種差別主義者でもなかった。ただ、そう見さえすれば十分なのだ。

公開羞恥刑を受けた後に、立ち直る機会を得た人もいる。
ナチスの制服を着た複数の女性とのSM乱交プレーを、新聞に暴露された国際自動車連盟の会長の例がある。
彼は反論する。セックスの時は誰もが多かれ少なかれ妙なことをするものではないだろうかと。
「どれほど恥ずかしいことがあっても、堂々としていれば大丈夫」ということを証明したお手本のような人物である。
男性が合意の上でセックスしている限り、セックススキャンダルは攻撃されないことは、次の事例でも示される。かつてアメリカのメイン州で69名の売春の顧客リストが公開され、裁判で罰金刑が課せられたが、公開羞恥刑にさらされた人物はいなかった。

著者はネットリンチの実態を次のように解説している。
今どういう行為が恥とみなされ攻撃を受けるかは、ツイッターなどSNSのユーザーたちの考えに大きく左右される。SNSのユーザーの多くがこれは許せないとみなし、排除に動けば、標的になった人間は破滅してしまう。何を許せないとするかには一定のコンセンサスがあるが、司法の判断やマスメディアの主張はそれにはほとんど影響を与えない。だからこそ非常に恐ろしいとも言える。

ネットリンチの怖いところは、一定のコンセンサスがあるといっても不確定であり、一旦起こったら歯止めがきかないということだ。
著者はネットリンチを防ぐ方法を模索したが、解決策はなさそうだという結論に達する。→人気ブログランキング

『夕暮れをすぎて』スティーヴン・キング

著者自身が書いている巻末の「サンセット・ノート」によると、著者は「ウィラ」がお気に入りだという。本書はキングの短編集の中でも珠玉選といえる。

「ウィラ」
恋人のウィラがデイヴィットの前から消えた。
ウィラはネオンが恋しくなったんだよという周りの言葉に、銀行投資マンのデイヴィットは、そうかもしれないと思った。
国道26号を歩いて、安酒屋(ホンキー・トンク)に行くと、フィラがいた。
そこで一時を過ごし、酒屋から出て月明かりのもと皆が待っている駅に2人は戻った。
列車事故で亡くなった霊たちがダンスを踊っている。
レイ・ブラッドベリーの作品や、デヴィット・リンチの映画『マルホランド・ドライブ』を彷彿とさせる、夢と現実の間のあやふやな世界を描いたホラー。

夕暮れをすぎて (文春文庫)
夕暮れをすぎて
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スティーヴン・キング グ/白石朗
文春文庫 2009年9月

「ジンジャーブレッド・ガール」
赤ん坊が乳児突然死症候群で亡くなってから、エミリーは走り出した。ジョギングではなくて、かなりハードに。夫婦喧嘩がエスカレートし、エミリーは夫と別居して、父親の別荘にしばらく住むことにした。
エミリーはピカリングの家の横を通った時、車のトランクに数十箇所も刺された女の遺体を目にした。
殺人鬼ピカリングとエミリーとの壮絶な格闘劇が読ませどころ。

「ハーヴィーの夢」
夢を人に話すと正夢にならないと言われている。悪夢が現実にならぬよう願って夫は夢の話をする。

「パーキングエリア」
用を足そうと、真夜中のパーキングエリアに入ると、1台の車が停めてあった。
紳士用トイレに入ると、婦人用トイレで男に女が殴られている様子。リーと呼ばれる男は、決まり文句の「この売女が」と叫びながら、女を壁に打ちつけたようだ。仲裁を買って出るべきか悩んだ末に。。

「エアロバイク」
医者はコレステロールが高いという。
イラストレーターはエアロバイクを購入し、地下の壁面に設置した。壁面にサイクリング用の道路を描き、はじめは15分しかこげなかったが、やがて2時間こぐようになった。本物の道路でサイクリングをしていると思い込むようになり、ついにはトラックに追いかけられる妄想を抱くようになる。

「彼らが残したもの」
会社をずる休みしたことで9.11のテロから免れたものの、同僚を失った男は、生存者罪悪感に悩まされていた。

「卒業の午後」
卒業の日ののどかな午後、ニューヨークの方を見ると大変なことが起こりつつあった。着弾したのだ。卒業生のそれぞれが予定していたことは中止になるだろう。→人気ブログランキング

ダークタワー Ⅱ 運命の3人 下
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
神々のワード・プロセッサ
ミスター・メルセデス
ジョイランド
11/22/63
書くことについて
幸運の25セント硬貨
1922
ビッグ・ドライバー
夕暮れを過ぎて
スタンド・バイ・ミー』(DVD)
キャリー』(DVD

「幸せをつかむ歌」

サンフランシスコの小さなライブハウスで、ロックバンド「リッキー&ザ・フラッシュ」のボーカル兼ギター担当のリッキー(メリル・ストリープ)は、かつて夫と3人の幼い子どもを捨てて、ミュージシャンの道を選んだ。
離婚の後、夫のピートはアフリカ系アメリカ人の女性と結婚し、3人の子どもを育てた。
子どもたちはリッキーを恨んでいる。
リッキーは経済的にどん底の状態で破産を申請している最中。

メリル・ストリープは才能が豊かな役者だと、改めて感じさせる作品である。
ギターの扱い(コードが主だが)が堂にいっていて、歌も上手い。本映画に備えて、ラリー・サルツマンやニール・ヤングらのもとでギターのレッスンを受けたという。
メリルは何をやっても様になるプロ中のプロだ。

幸せをつかむ歌 [DVD]
幸せをつかむ歌
posted with amazlet at 17.04.20
監督:ジョナサン・デミ
脚本:ディアブロ・ゴディ
原題:Ricki and the Flash
アメリカ 2015年 101分
★★★★

インディアナポリスで暮らすピートからリッキーに電話がかかってくる。
娘のジュリー(メイミー・ガマー、メリル・ストリープの実娘)の夫が家を出て行ってしまい、ジュリーが心身ともに参っているので力になって欲しいとのこと。ピートの妻はアルツハイマー病の父親の介護で留守にしている。

なけなしの金をはたいて、リッキーはインディアナポリスに向かった。
豪華な邸宅が立ち並ぶゲート・コミュニティの入り口で、リッキーは身分証明書の提示を求められる。貧乏ロッカーが訪れるようなところではないというわけだ。

ジュリーは、風呂に入らず着替えもせず、食事もまともに摂らないほど落ち込んでいた。
最初は反抗的な態度をとるジュリーだったが、陽気に優しく接するリッキーに次第に心を開いていく。

サンフランシスコに帰ると、相も変わらぬ貧乏暮らしが待っていた。ある日、リッキーは、バンドのギタリスト・グレッグから求婚され、戸惑いながらも承諾した。
そんな折、リッキーのもとに息子の結婚披露パーティーの招待状が届いた。
お金がないリッキーは欠席しようとするが、グレッグが愛用のギターを質に入れて、お金を工面してくれた。

いよいよリッキーがスピーチに立った。リッキーからの新郎新婦へのプレゼントは歌うこと。ステージには「リッキー&ザ・フラッシュ」のメンバーがスタンバイしていた。→人気ブログランキング

『女の機嫌の直し方』 黒川伊保子

本書は脳からみた「目から鱗」の女性論であり、女性とうまくやっていくための男性向け指南書である。女性との付き合い方に悩んでいる男性諸氏にオススメ。星は6つ。
冒頭の一文、〈女は何が厄介って、些細なことで、いきなりキレることだよな。それと、すでに謝った過去の失態を、何度も蒸し返して、なじること。〉は、男が「何で?」と、つねづね思っていることだ。

カバーの著者紹介によれば、著者はAIの研究開発に従事したあと、「感性リサーチ」社を設立し、現在は取締役社長。人工知能研究者、脳科学コメンテーター。

女の機嫌の直し方 (インターナショナル新書)
女の機嫌の直し方
posted with amazlet at 17.04.19
黒川 伊保子
集英社インターナショナル新書
2017年4月 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

女性脳は、ことの発端から時系列に経緯を語りながら、そこに潜む真実や心理を探り出している。共感によって話を聞いてもらうと、この作業の質が上がるという。
女性脳には共感が必要だ。

一方男性は、相手が状況を語りだしたら、その対話の意図を探り、素早く解決すべき問題点を洗いだそうとする。優秀な男性脳ほど省エネ型で、枝葉末節にこだわらず、全体をシンプルに捉えようとしているという。これは狩りを行っていた男の性であるという。

女が「地下鉄の階段で転びそうになって転ばなかった話」を長々とすることを、男性は理解できない。なぜなら、転ばなかったのなら、男にとって情報量ゼロの話題なのだ。
女性脳は「怖い」「ひどい」「辛い」などのストレスを伴う感情が起こるとき、そのストレス信号は男性脳の何十倍も大きく働き、何百倍も長くのこるという。共感されるとその余剰な信号が沈静化するという。共感を得るために話題にあげるのだ。

〈男性は、遠くと近くを交互に見て距離感をつかむ。ものの輪郭をいち早くつかみ、その構造を理解する。女性は、比較的近くにあるものの表面をなめるように見て、針の先ほどの変化も見逃さない。〉長らく狩をしてきた性と、子育てをしてきた性に振り分けられた男女のビューセンサーの違いは、ドライブデートで喧嘩の原因になる。
助手席に乗った女性が「そこ右」と言ったとき、彼女は20メートル先の脇道を見ているのに、運転席の男性は50メートル先の交差点を見ている。そこで指示に従わなかったと、女性がキレる。確かにそういうことが過去に何回かあった。

女性は、交尾さえ遂行すればすぐ死んででもいいオスとは、自分の快適(それは子育てにつながる)に対する責任が違うという。女性が感情的になるのであればそれはその脳にとって必要なことだからだ、とまでいう。
女は共感されたい、男は解決したいのだから、解決したいのであれば、男は大いに譲って共感するほうがスムーズにいく。
本書のキーワードは「共感」である。→人気ブログランキング

「ハドソン川の軌跡」

2009年1月15日、実際にニューヨークで起きた航空機事故を、クリント・イーストウッドが、登場人物を実名で登場させて、事故を装飾せず忠実に伝えた作品。

ニューヨークのラガーディア空港を飛び立った直後の旅客機が、鳥の大群に突っ込み両方のエンジンが停止した。ビルが林立するマンハッタンの上空で旅客機の高度はどんどん下がっていく。管制官の「空港に引き返せ」という指示に従わず、サレンバーガー機長(通称サリー/トム・ハンクス)は旅客機をハドソン川に不時着水させた。その結果、乗員乗客155人は全員無事に生還し、機長は英雄として世界に報じられた。

さすがアメリカと思ったものだった。
ところが、機長と副操縦士が、米国家運輸安全委員会の厳しい調査を受け苦悩していたことは、まったく知らなかった。
事故後間もない頃に、登場人物を実名で映画にすることは、日本ではありえないことだ。航空会社も映画製作に協力してるという。真実を忠実に伝えようとする姿勢はハリウッドならではものだ。

ハドソン川の奇跡(字幕版)
原題:Sully
監督:クリント・イーストウッド
音楽:クリスチャン・ジャイコブ、ティアニー・サットン・バンド、クリント・イーストウッド
制作国:アメリカ 2016年 96分 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

もし空港に戻ることが可能だとしたら、誤った判断により乗員・乗客を危険にさらし航空機に損傷を与えたとして、機長は英雄から一転ペテン師の汚名を着せられる。
機長は苦しい胸の内を何回も妻(ローラ・リニー)に電話で話す。

いよいよ、公聴会が始まった。
エンジンが止まってからハドソン川に着水するまでの時間は208秒。
まるでテレビゲームのようなシミュレーションの様子が、リアルタイムに公聴会会場に映し出され、ラガーディア空港に無事着陸できることが映し出した。

機長は調査委員会のメンバーに、「シミュレーションは何回練習したのか」と質問する。
「17回」とメンバーが答える。
「事故に直面したとき、チャンスは1回きりしかない。ゲームとは違う。事故の後、状況を分析して判断を下すまでの時間がかかる」と機長と副操縦士は主張した。
事故から決断までの時間35秒を差し引いて、再度シミュレーションが行われると、旅客機は建物に衝突して爆発した。
公聴会会場には、機長と副操縦士の偉業を讃える拍手が起こった。

DVDのボーナス・トラックには、サレンバーガー機長夫妻と副操縦士や乗員・乗客たちのインタビューが収録されている。
人命を左右する仕事であるから当たり前といえばそれまでだが、機長の仕事に対する真面目な取り組みには脱帽する。
たとえば、機長はこれまでの航空機事故をすべて記憶しているという。さらに操縦中に到着地点の空港の気象を1時間ごとにチェックし、データを修正することを常としていることなどである。
サレンバーガー機長の、42年間に培った高度な操縦術と事故に対する豊富な知識、冷静沈着な判断があり、さらに乗員の的確な指示や対処があったからこそ、全員が無事で生還できたのだ。→人気ブログランキング

『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか ハリウッドからアメリカが見える』 藤えりか

本書は、朝日新聞の別刷り『GLOBE』に連載されたコラムをまとめたもの。
コラムが執筆された期間に、アメリカ大統領選挙戦があったため、トランプ政権とハリウッドについて所々で触れている。政治、宗教、戦争、人種差別、移民問題、ジェンダーやマイノリティーの問題、貧困問題など、世界が抱える諸問題を映画を通じて浮かび上がらせ、世の不条理を読者に問いかける。饒舌で硬派な内容だ。

ゴールデン・グローブ賞授賞式(2017年1月8日)で、メリル・ストリープは、トランプの人種差別発言や身障者のしぐさを真似したこと批判した。これに対してトランプはツイッターで「ハリウッドで最も過大評価された女優のひとり」「大敗したヒラリーのおべっか使いだ」と中傷した。このあたりのことはニュースで伝えられた。
ところが、トランプを擁護する発言こそなかったが、メリルの発言には賛否が巻き起こったという。さらに、共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員の娘で、FOXニュースの番組ホスト、メーガン・マケインは、 次のようにツイートした。
「メリル・ストリープのこのスピーチこそ、トランプを勝たせた要因。それがなぜなのかハリウッドが認識できなければ、彼の再選を助けることになる」と、意味深長なことをつぶやいたという。

『スノーデン』(2016年)を製作したオリバー・ストーン監督のインタビューで、監督は、ヒラリー・クリントンの介入主義の危うさ、トランプへの期待(ビジネスマンは戦争を好まないとオリバーは言っている)、CIAの腐敗や堕落を嘆いている。

2014年、2015年、2016年に公開された映画を中心に語っている。
ハリウッド映画にとどまらず、ヨーロッパ、トルコ、ブラジル、日本、ニュージーランドなど映画にも言及している。
著者は監督やプロデューサーや出演者に、いとも簡単に、電話でスカイプであるい直接インタービューをすることができる。著者の人脈の広さ、交渉能力の巧みさはどこからくるのだろう。ネットでは、著者は「朝日新聞の噂の女」などと揶揄されていて、フットワークの軽い凄腕ジャーナリストに対する、同業者のやっかみともとれる内容の記事が投稿されている。 →人気ブログランキング

取り上げられている映画は、以下。
『沈黙ーサイレンス』(16年)、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15年)、『ニュースの真相』(15年)、『ハドソン川の軌跡』(16年)、『ジェイソン・ボーン』(16年)、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16年)、『バース・オブ・ネイション』(16年)、『タンジェリン』(15年)、『ホームレス ニューヨークと寝た男』(14年)、『ラ・ラ・ランド』(16年)、『スノーデン』(16年)、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(16年)、『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』(14年)、『ジャングル・ブック』(16年)、『シーモアさんと、大人のための人生入門』(14年)、『ジャック・リーチャー  NEBER GO BACK』(16年)、『ダム・キーパー』(14年)、『ブルーに生まれついて』(15年)、『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス空白の5年間』(15年)、『ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男』(16年)、『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(16年)、『帰ってきたヒトラー』(15年)、『裸足の季節』(15年)、『ストリート・オーケストラ』(15年)、『健さん』(16年)、『はじまりはヒップホップ』(14年)『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(15年)、「将軍様、あなたのために映画を撮ります』(16年)、『ダゲレオタイプの女」(16年)、『彷徨える河』(15年)、『ヒトラーの忘れ物』(15年)、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15年)、『太陽の下で―真実の北朝鮮』(15年)、『未来を花束にして』(15年)、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』(14年)

『ファング一家の奇想天外な秘密』

アニー(ニコール・キッドマン)とバクスター(ジェイソン・ベイトマン)の姉弟は、前衛芸術家の両親に育てられた。一家は、銀行強盗を仕掛け銀行に居合わせた人々の反応をビデオに収めたり、写真スタジオで一家の写真を撮るさいに4人が口から血を流してみたり、他人を巻き込んでのパフォーマンスを行ってきた。人騒がせな一家だ。
姉弟が中学生のときに『ロメオとジュリエット』を学校で演ずることになり、父親が裏で手を回して、観客の前で姉弟がキスする場面を仕組んだこともあった。
両親はそうしたことが芸術であるとの信念を持っているが、姉弟は理解できなかった。
前衛芸術の世界ではファング一家はそれなりに有名であった。

ファング一家の奇想天外な秘密 [DVD]
監督:ジェイソン・ベイトマン
原題:The Family Fang
原作:ケヴィン・ウィルソン
制作年:2015年
制作国:アメリカ  107分  ✳︎✳︎✳︎

姉弟は大人になって両親と決別し、アニーは三流の女優として、バクスターは小説家として暮らしていた。
そんなとき、ゲガでバクスターが入院し、アニーが病院に呼び出された。病院からの連絡で両親も病院にかけつけ、久しぶりに一家4人がそろった。

アニーは子供時代を振り返り「普通の家族の生活」を送りたかったと打ち明けた。父親はそれなりに楽しかったはずだと言い返した。
父親は再び4人でパフォーマンスをやろうと提案するが、アニーとバクスターは拒否する。パフォーマンスは思い通りにいかず失敗に終わるが、父親がわざと失敗するように仕組んだのかもしれない。

旅行に出かけた両親が行方不明となり、父親の車には血痕が残されていたと警察から連絡が入った。警察は誘拐事件と断定したが、アニーは狂言に違いないと警察の判断を信じない。姉弟は両親の居場所を突き止めようとする。→人気ブログランキング

原作は、全米でベストセラーになった『The Family Fang』(ケヴィン・ウィルソン)だが、日本語には翻訳されていない。
ドッグヴィル』(2003年)、『記憶の棘』(2004年)、『マーゴット・ウェディング』(2007年)『ラビット・ホール』(2010年)など、ニコール・キッドマンはヒットしそうにない一風変わったストーリーの作品に出演することがあるが、本作もその手の作品だ。日本では公開されていない。

『サイコパス』 中野信子

サイコパスとはどんな人物か?
ありえないウソをつき、不正を働いても平然としている。ウソがばれても、恥じるそぶりを見せない。殺人や詐欺事件をおかしたにもかかわらず、まったく反省の色を見せない。外見は魅力的で社交的で、トークやプレゼンテーションは立て板に水で、抜群に面白い。だが、関わった人は騙されてひどい目にあう。性的にも奔放であるため、色恋沙汰のトラブルも絶えない。経歴を詐称したり、過去に語ったことと反対のことを平気で主張する。矛盾を指摘されると、「そんなこと言っていない」と涼しい顔で言い張る。というような厄介な人物のことである。

サイコパス (文春新書)
サイコパス
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中野信子
文春新書 2016年11月
売り上げランキング: 73

サイコパス(Psychopathy)とは、連続殺人犯などの反社会的な人格を説明するために開発された診断上の概念であり、日本語では「精神病質者」と訳されている。『精神障害の診断と統計マニュアル』では、「反社会性パーソナリティ障害」に相当する。
カナダの犯罪心理学者ロバート・ヘアによれば、男性では0.75%、アメリカの研究者によれば、人口の4%。この差は診断基準の違いによる。

サイコパスは顔の横幅が広い。ある集団実験で、顔の横の比率が大きいほどズルをする確率が高かった。テストステロンの濃度が高いほど顔は横に広くなる傾向があるという。
心拍数が低くしかも上がりにくい人の方が、反社会的行動をとりやすいとされる(→『言ってはいけない』>橘 玲 新潮文庫 2016年 )。
サイコパスは『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士のようにIQが高いと思われがちだが、平均ではそういうことはなくむしろ低い。

サイコパスにも種類がある。「捕まりやすいサイコパス」、つまり危険でも不安を感じない「負け組サイコパス」と、「捕まりにくいサイコパス」、いよいよ危険というレベルになると不安を感じる「勝ち組サイコパス」に分けることができる。
「負け組サイコパス」は、犯罪を犯し刑務所に収監されリストアップされる。「勝ち組サイコパス」をどうやって見つけ出すかが問題である。
『暴力の解剖学』の著者・エイドリアン・レインは、臨時職業紹介所に頻回にやってくる人に狙いをつけた。サイコパスは刺激を求め、あるいは組織の中でうまくやっていけずに、短期間に仕事を転々としているはずだと推測した。臨時職業紹介所に頻回にやってくる人のうち、24.1%が反社会性パーソナリティ障害であり、そのうち1/3がサイコパスの傾向の強い人だったという。

脳の血流動態を調べることができるfMRI(核磁気共鳴機能画像法)によると、サイコパスは海馬に機能低下を認め、また、後帯状回の機能不全が認められるという。後帯状回は悲しかった嬉しかったといった情緒的経験を蓄積するところ。脳梁にも一般人と形状の違いがあるという。

家庭環境が安定していようと不安定であろうと、サイコパスが最初に姿を現すのはほぼ14歳であり、健全な家庭環境に育っても、サイコパスは環境が歯止めにならないという。
アメリカの犯罪学者ロバート・マーティソンがそれまでに実施された200以上の犯罪者治療についての論文をレビューし、「サイコパスには何をやっても効果がない」と結論を下した。

著者は、サイコパスは人類の歴史に貢献したとしている。
人類はアフリカで誕生後、短期間に急速に分布域を広げた。リスクを恐れず、未開の地への移住を試みた先祖たちの中には、サイコパスがいただろう。大航海時代の探検家やアメリカ西部を開拓していった人たちのなかにも、恐怖や不安を知らないサイコパスがいただろう。率先して危険を顧みずに行動したサイコパスがいたからこそ、普通の人たちが鼓舞され、追従できたのだろうという。
著者がサイコパスとしてあげる著名な人物は、織田信長、毛沢東、ピョートル大帝、ジョン・F・ケネディ、ビル・クリントン、スティーブ・ジョブス、マザー・テレサ、ドナルド・トランプなどである。

女性のサイコパスには、か弱さをアピールするタイプがいる。
たとえば、漫画研究会やアニメ同好会のようなオタク系サークルに、一見清楚そうで汚れのなさそうに見える女の子が入ってくることがよくあるという。これが「オタサーの姫」。
「サークルクラッシャー」は、サークルの中で複数の男と性的関係や精神的依存関係を持ち、それが原因でトラブルを起こし、集団を崩壊させてしまう女の子のこと。
「オタサーの姫/サークルクラッシャー」は必ずしもイコールではないが、弱者であることを演出をする。金品や物品、様々な便益を得るためのこともあれば、男が騙されて転んでいくのが楽しがるというケースもあるという。やっていることは詐欺師と変わらない。→人気ブログランキング

最近の脳科学分野の劇的な進歩により、さまざまなことが明らかにされている。
たとえばフロイトの業績は科学的に証明できない。いまではトンデモ科学呼ばわりする人もいるという。