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2017年5月

『地球の静止する日』ハリー・ベイツ 他

過去に映画やテレビの素材となった物語を、再度、大手映画会社でリメイクの企画が持ち上がったものを選んだアンソロジー。選者は訳と解説を担当する尾之上浩司。

「地球の静止する日」ハリー・ベイツ
3ヶ月前、旅行船が博物館に現れ、旅行船から主人・クラートゥと巨大なロボット・グナットが降り立った。クラートゥが狙撃されるという、人類にとって恥辱となる事件が起きてしまう。
礼を尽くした葬式が行われたが、グナットはまったく動かなくなり、あまりの重量で動かすこともできなかった。博物館に突き刺さった船もグナットもそのまま展示されている。
写真記者のクリフは、博物館が閉館するまでテーブルの下に隠れていて、館が閉まり誰もいなくなると、グナットの写真を撮った。昨日と今日の2枚の写真を比べるとグナットはわずかに動いているのだ。
やがてグナットは夜になると派手に動き回っていることが分かった。

地球の静止する日 (角川文庫)
地球の静止する日
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ハリー・ベイツ 他
角川文庫  2008年

「デス・レース」イブ・メルキオー
ニューヨーク=ロサンゼルス間カーレースは、最短距離で時間だけを稼ぐレースではない。人を轢殺すと犠牲点が加算される。レーサーのウィリーはメカニックのハンクを乗せて出発した。
着実に犠牲点を加算していくが、ウィリーは犠牲点を稼ぐことを躊躇した。そのことが原因で車中で喧嘩になり事故に。。

「廃墟」リン・A・ヴェナブル
街は破壊されたが、ヘンリーは待望のひとりで本を読める時間を持つことができたと喜んだのもつかの間、次の爆発が起こった。

「幻の砂丘」ロッドサーリング&ウォルター・B・ギブスン
1948年、クリストファーは幌馬車隊の隊長としてオクラホマからカリフォルニアに向かった。途中、水がなくなりかけ、クリストファーが西に向かおうとすると、隊員の大方は引き返すという。クリストファーは水を求めて砂漠の縁に向かった。そこで、クリストファーは時空の歪みに入り込む。

「アンティオン遊星への道」ジェリィ・ソール
ジャーナリストのキース・エラスンは星間移民船に乗ることになった。
今回は2回目。1回目の移民船では暴動が起こり、多くの死者を出した。キースは監視役を頼まれたのだ。
レッドマスクはアタッシュケースを盗み、女を暴行した。
結成された自警団は銃を奪われ金品が盗まれる事件にまで発展したが、レッドマスクは捕まり処刑される。
船内で不満を持ちがちな乗客の怒りをレッドマスクに向けさせ、発散させるために仕組まれた狂言だった。

「異星獣を追え!」クリフォード・D・シマック
ヘンダーソンは逃亡した狡猾で恐ろしい殺戮マシーンの異星獣"プードリイ"を探している。夜明け前に"プードリイ"を探しだして殺さなければならない。幼生を再生してからでは遅い。ヘンダーソンはプードリイが子孫の生産を行う場所として選ぶのは、動物園だと思った。異星獣との壮絶な戦いが繰り広げられる。

「見えざる敵」ジェリイ・ソール
この惑星で、3隻の小型宇宙船と24名の人員をすでに失っているが、戦った痕跡はない。
ラザリが緊張症に罹り暴れ出した。捕縛されたが、隔離部屋の壁に頭を打ちつけて亡くなった。
コンピュータ解析を進めると、アリソンは人間が消えた原因をつかんだ。
アリソンはラザリの葬儀を中止すべきだ、葬儀を行えば参列者が犠牲になると司令官に訴えた。その提言に司令官は従わなかった。
そして惨劇は起こった。

「38世紀から来た兵士」ハーラン・エリスン
第7次大戦のただ中、兵士クァーロはワープして地下鉄のホームに降り立った。目の前で心臓発作を起こした老人を助けようと近づくと、「そいつが撃った」と指さされ、クァーロは捕まった。
クァーロの持っていたブランデルマイヤー(光線銃)が調べられた。継ぎ目のない造りでエネルギーの供給源がなく、遠距離攻撃も可能な武器だった。
クアーロをどうあつかべきか議論される。

「闘技場(アリーナ)」フレドリック・ブラウン
国の戦いを代理戦争で決着をつけようとする話。
カースンは青い砂の上に裸で寝ていた。冥王星の軌道の外側で一人乗りの偵察機に乗っているときに、敵の偵察機と遭遇した。そのあと記憶がない。
気がつくとカースンはドームの中にいた。戦争の仲介者と名乗る声が心の中で聞こえてきた。戦火の上がっていない辺域からお前と侵略者の1人を選び出したという。
勝った者の種族だけが生き残こる。
侵略者の赤い球体がカースンの前に現れた。しかし、弾力性のあるバリアーに隔てられている。
カースンの停戦協定案に対し、球体から強烈な憎悪の思念波が送られてきた。
石が投げ込まれ、カースンと球体の死闘がはじまる。

『ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本』

本書は約130年前に、ラフカディオ・ハーンが書いた『クレオール料理』の抄訳である。抄訳とする代わりに、ハーンがクレオールの諺をまとめた『ゴンボ・ゼブ』から食べ物に関するいくつかの諺を載せ、さらにハーンが新聞に書いたエッセイやイラストも採用されていて、飽きさせない構成になっている。
1998年にTBSブリタニカより発刊された同名の本の復刻版。

ハーンは明治時代(1890年)に来日し、松江で英語教師として教鞭をとり、日本人女性と結婚し、帰化して小泉八雲と名乗った。その後、ハーンは東京帝国大学で英文学を教えるようになり、怪談話を執筆したり日本文化を英語圏に紹介したりした。こうした日本での業績は知られているが、アメリカでのハーンについてはあまり知られていない。
ハーンがなぜクレオール料理の本を執筆したのか、そのあたりのことは、冒頭の「ハーンとクレオール料理」で、監修者が紹介している。

復刻版 ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本
ラフカディオ・ハーン/河島弘美 監修 鈴木あかね 訳
CCCメディアハウス
2017年3月

ハーン(1850年〜1904年)は、1850年にアイルランド人でイギリス陸軍医の父とギリシャ人の母との間にギリシャで生まれた。そのあと、一家はアイルランドに引っ越すが、母親が土地の暮らしに馴染めず帰国してしまい、また父親は別の女性と結婚してしまった。ハーンは大叔母に引きとられ少年時代を過ごすが、大叔母が破産したため、19歳でアメリカに渡った。オハイオで職を転々としたのち、27歳でニューオリンズの新聞記者として活躍しはじめた。その活躍ぶりは、〈当時ハーンの書いた文章を見ると、センセイショナルな犯罪記事をはじめ、物語、エッセイ、文芸評論など驚くほど多方面に及んでいる。〉と書かれている。

ハーンはニューオリンズのクレオール文化に興味をもった。美味しい料理を提供してくれるコートニー夫人と出会い、食べることになみなみならぬ関心を示したという。ハーンは、1884年にニューオリンズで開かれる博覧会に向けて『クレオール料理』を執筆した。その内容は、〈およそ家庭で作ろうとする食物でここに載っていないものがあろうかと思うほどである〉という。

クレオールとは、ルイジアナ地方に入植したフランス人とスペイン人およびその子孫をさすが、一般的にはフランス系やスペイン系の人々と有色人種の間にできた混血の子孫をも意味するようになった。さらに、クレオール料理とは、ニューオリンズ地域に発達した複数の食文化が混合してできあがった料理のことである。

本書にはレシピのみならず、料理の基礎から盛り付け、ワインの選び方まで料理全般について書かれている。例えば、美味しいパンを作るためのイースト菌の保存の仕方とか、亀のさばき方とか、冷静肉を美味しく盛りつける方法など。
冷蔵庫がない時代なので、防腐の意味合いもあるのか何種類ものピクルス料理が紹介されている。そのなかに、〈卵のピクルス〉というのがあって、要するにゆで卵の酢漬けなのだか、「冷製肉の付け合わせとしてこれに勝るものはないというほど」だそうだ。

獣肉・鳥類・鹿肉料理のための45種類のソースが紹介され、ケーキやお菓子、デザートにはかなりのページ数(全体の1/3以上)が割かれている。
もちろん、現在も使えるレシピである。→人気ブログランキング

食べるアメリカ人』 加藤裕子 13/03/11
アメリカの食卓』  本間千枝子 12/05/18
ジュリー&ジュリア』 (DVD) 12/05/15
クスクスの謎―人と人をつなげる粒パスタの魅力 』 にむら じゅんこ 12/04/08

『いかしたバンドのいる街で』 スティーヴン・キング

飛び跳ねるような饒舌さがキングの文章の魅力だが、それが十分に発揮されているのが「動く指」。キング節爆走といったところ。

「献辞」
息子の処女小説『栄光の炎』がマーサのもとに小包で送られてきた。
かつて、大作家ピーター・ジェフリーズは、黒人の掃除婦マーサが勤めるホテルのスイートルームに必ず泊まり、そこで黄色い原稿用紙に小説を書いていた。
マーサはピーターの本を愛読していて、彼の著作『天上の炎』にサインを頼んだのだった。
2冊の本の献辞の下に、それぞれの著者が直筆で書かれた文字はこよなく似ていた。

いかしたバンドのいる街で (文春文庫)
スティーヴン キング
文春文庫
2006年8月

「動く指」
洗面所の排水口から現れる動く指と戦うハワードの苦悩を描く。

「スニーカー」
ハルは音楽プロデューサー。
男子用トイレで汚れたスニーカーを見かけた。
そのスニーカーを履いている奴は誰だ。死体か?

「いかしたバンドのいる街で」
前半は、遠距離ドライブで道に迷った30代の夫婦がくり広げる主導権争いの会話が続く。
引き返そうというメアリーにクラークは男の意地を通す。
クラークとメアリーがたどり着いたところは、「ロックンロール・ヘブン」という町。町の外観はどこかで見たことがあるようだった。
テイクアウトのソーダを買いに2人でロックアブギ店に入ると、そこには、ウェートレスのジャニス・チョップリンらロッカーが数名いた。
財布を取りに車に戻ったクラークが、戻ってこないのでメアリーは不安にかられる。

「自宅出産」
島で暮らすマディー・ベイスは心配性で優柔不断。
そのマディーが結婚して妊娠した。ところが頼りにしていたロブスター捕りの夫が海に放り出されて死んでしまった。
ゾンビがホワイトハウスで、大統領夫妻を生きたまま食べてしまったとテレビは伝えている。そこからキングのドタバタ劇が展開する。
隔離された島でもゾンビ騒ぎが起こり、ゾンビの夫がマディーの目の前に現れる。

「雨期きたる」
ウィローの街では、7年ごとに1日だけ雨期がやってくる。
映画『マグノリア』のように、ヒキガエルが空から降ってくるという。《ファフロッキーズ》という現象。ただ降ってくるのではない、ヒキガエルは人を襲う。
ところで、その町で話しかけてきた老夫婦が飼っている、屁こき老犬・トビーが名脇役として登場する。

トビーで思い出したが、キングの妻タビサ・キングは通称タビーと呼ばれていて、『書くことについて』では、タビーの糟糠の妻ぶりが描かれている。タビー自身も小説家であり、ふたりの間には一女ニ男の子どもがいて、男二人も小説家になっている。息子オーエンの妻ケリーも小説家である。
そんなキング家のインタヴュー記事(Stephen King’s Family Businessが、『New York Times』(2013年8月4日)に掲載されている。→人気ブログランキング

ダークタワー IV1/2 鍵穴を吹き抜ける風
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 下
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 上
ダークタワー III 荒地 下
ダークタワー III 荒地 上
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 下
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
ミスター・メルセデス
ジョイランド
11/22/63
書くことについて

ジェラルドのゲーム
ドランのキャデラック
第四解剖室
ミザリー
幸運の25セント硬貨
1922
ビッグ・ドライバー
神々のワード・プロセッサ
夕暮れを過ぎて
いかしたバンドのいる街で
スタンド・バイ・ミー(DVD)
キャリー   (DVD

晩春の落ち葉ども

晩春には、常緑広葉樹は葉が茂るに伴い、古い葉をだらだらと落葉し続ける。この時期、3面が道路に面しているわが家は、道路の落ち葉掃除に追われる。

わが家が面する道路のアスファルトは、目の粗い水はけのよい仕様である。家を建てたときに、市の条例に従い1メートルのセットバックを強いられた。セットバックした部分が砂利のままなので、舗装することにした。このとき、アスファルトに種類があるとは知らず、「水はけの良い方にしましょう」という建築会社の担当者の意見に従った。わが家の周りだけが目の粗いアスファルトになった。

アスファルトには、大まかに透水性と排水性の2種類がある。そのほかカラー仕上げや弾力素材を混ぜたりすることもできて、細かく分けると10種類以上もあるそうだ。町の幹線道路は排水性アスファルト仕様で、道路の中央が高く端にいくほど低くなっている。雨が降ると傾斜に沿って道路端の側溝や下水に雨水が流れ込む構造になっている。目が粗い透水性アスファルトは、雨が降るとそのまま染み込むようになっている。

家の正面は、低木のキャラボクを植え、さらにカクレミノを等間隔で10本ほど並べた。裏庭はウバメガシの生垣で囲った。垣根といえば『夏は来ぬ』に出てくる卯の花と思っていたが、「最近、卯の花の垣根は流行っていませんね。落葉樹ですから垣根には向いていませんよ」と、庭師にあっさり却下された。

ウバメガシは備長炭の原料となる硬い木質の雑木で生命力が強く、晩春にはこれでもかというくらい旺盛に落葉を繰り返す。ウバメガシの葉には山なりのカーブがあり、葉脈の先端が尖っている。尖ったところが粗い目のアスファルトに引っかかり、ホウキで掃いてもビクともしないことがある。ホウキの力に逆らい、チリトリとは別の方向に跳ねたりして、まるで意志を持っているかのように反抗的に振舞ったりする。さらに、塀のコンクリートの土台とアスファルトの隙間に刺さった葉は、手でつまんで取るしかない。これを1か月以上続けなければならないのだ。

近くの公園の卯の花が香る頃になると、ウバメガシの垣根に妥協しまったことを後悔する。→人気ブログランキング

『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 』井上智洋

著者はマクロ経済学者。
2030年ごろから、先進国では深刻な雇用崩壊が始まると予測している。

シンギュラリティとは、コンピュータが全人類の知性を超える未来のある時点のことをいう。日本語では、技術的特異点や特異点と訳されている。
人工知能(AI)は、2020年代には人間ひとりの脳に、2045年には全人類のすべての脳に比肩するようになるという。つまり1台のパソコンで全人類分の脳と同等の情報処理ができるようになる。
これは、今までにいくつかの未来予測を的中させてきた、アメリカの著名な発明家レイ・カーツワイルが、著書『シンギュラリティは近いー人類が生命を超越するとき』(2005年)で論じていることである。

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 (文春新書)
井上 智洋
文春新書 2016年7月 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

現在、世の中に存在する人工知能はすべて「特化型人工知能」であり、一つの特化された課題しかこなすことができない。一方、将来開発される人間のように様々な知的作業をこなすことができる人工知能は「汎用型人工知能」である。

では、社会はどうなるのか。汎用型AIに不向きな仕事の従事者と資本家以外は、職を失うことになる。職業を奪われる人の割合は90%と試算している。
資本家は効率の悪い人間を雇うより、効率の良いAIに仕事を回すだろう。汎用型AIを導入することで人件費はゼロに近づき、生産効率は飛躍的に良くなり、経済は成長すると予測している。もはや資本主義は終焉を向かえる。いわゆる「2045年問題」である。

著者はAIに奪われにくい仕事として、次の3系統の仕事を挙げている。
「クリエイティヴィティ系」は、小説を書く、映画を撮る、発明する、新しい商品の企画を考える、研究をして論文を書く、といった仕事。
「マネージメント系」は、工場・店舗・プロジェクトの管理、会社の経営者など。
「ホスピタリティ系」は、介護士、看護師、保育園、インストラクタなど。

では、職を奪われた人びとはどうやって暮らしていけばいいのか。著者はベーシック・インカム(BI)の導入を提案している。BIとは、政府がすべての国民に一定の金額を給付する制度のことである。財源は、莫大な利益を得るだろう資本家からの税金で賄う。

シンギュラリティは人類の進化の通過点なのか、それとも破滅への一歩となるのか。人類を待ち受けるのはユートピアなのかそれともデストピアなのか。そもそも著者が描く未来予想図の通りにことは運ぶのか。いずれにせよ、これまでの法則が通用しない時代が迫ってきているのは確かなことのようだ。→人気ブログランキング

→『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 』井上智洋 文春新書 2016年
→『未来型サバイバル音楽論』津田大介×牧村 憲 中公新書ラクレ 2010年
→『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』梅田望夫 ちくま新書 2006年

『フェルマータ』ニコルソン・ベイカー

『中二階』『もしもし』で、瑣末な事柄をミクロな表現で饒舌に語り、詩的なコスモスを創り出したニコルソン・ベイカーの第3弾。

主人公のアーノルドは35歳、ボストンの中心街にある銀行で派遣社員として働いている。タイプ打ちが仕事だ。
アーノルドは「ひょんなこと」から時間を止める能力があることに気づいた。それを〈フェルマータ〉とか〈襞(フォールド)〉とか〈ドロップ〉と呼んでいて、〈フェルマータ〉を使って女性の裸を鑑賞することに情熱を燃やしている。

フェルマータ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
フェルマータ
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ニコルソン ベイカー/岸本佐和子訳
白水社
1995年6月

時間を止める能力は、長い間発揮できないこともある。
たとえば、〈ビー玉を6個、クッキングシートの上に並べて低温オーヴンで焼き、冷たい水を満たしたコップの中に一つ落としてみたこともあった。ビー玉がジュッと音を立てて水に沈み、内側からカチンとひび割れ模様を生じる瞬間、時間が止まるのではないかと、固唾を飲んで見守ったが、何も起こらずじまいだった。〉という涙ぐましい努力の結果ハズレのことがあるかと思えば、指をパチンと鳴らすだけで〈フェルマータ〉が訪れることもあるのだ。

アーノルドは周りの目につく女性すべてとセクシャルな関係を持とうと妄想するので、〈フェルマータ〉を使うのはほとんどの場合、性的な目的である。
ただし、アーノルドは節度をもって女性に接していると自負していて、女性の下着を脱がせて観察したり、乳房に触れたり陰毛に頬ずりしても、その女性に尊敬と愛情をもって接し、決して迷惑をかけないという姿勢を貫いているつもりでいる。自分が性的な喜びを得ることもさることながら、相手の女性にも喜びを味わってもらおうという、博愛精神を貫いている。

アーノルドは、〈フェルマータ〉で時間の止まった世界と通常の世界を行き来して、通販で取り寄せた性具を女性に使わせる算段をしたり、自らが渾身の力を注いで書いたポルノ小説(ロット)を女性が読むように画策したりする。
本文中にそのロットの2作品があますことなく紹介されている。

善良なアーノルドの実際の恋愛はどうかというと、恋人のローディに〈フェルマータ〉のことをそれとなく打ち明けると、あっけなく振らてしまう。

今や、アーノルドは正面に座っている正社員のジョイスに恋をしていて、デートに誘ことに〈フェルマータ〉を使って成功する。しかし、真の愛を勝ちとるには避けて通れないと、ジョイスに〈フェルマータ〉のことを打ち明けるのだが。。→人気ブログランキング

フェルマータ
もしもし
中二階

「ニュースの真相」

2004年秋、米テレビ3大ネットワークのひとつCBSの『60ミニッツⅡ』の名物アンカーマン、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)が降板するに至った。当時、ブッシュ大統領は再選を目指し、民主党の候補ジョン・ケリーと競っていた。
番組のプロデューサー、メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、同じ年にイラクの刑務所での捕虜虐待を報じ、賞を獲得した辣腕ジャーナリストである。ダン・ラザーとは父娘のような信頼関係で結ばれている。
原作はメアリー・メイプスの手記である。

ラザーやメアリーが若いスタッフに投げかける「どんなに批判されても、メディアが質問をしなくなったらこの国は終わりだ」という言葉は何回も語られる。

ニュースの真相(字幕版)
ニュースの真相
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監督:ジェームス・ヴァンダービルト
原作者:メアリー・メイプス
音楽:ブライアン・タイラー
製作国:アメリカ  2015年  125分

事の発端は、ブッシュが若い頃、父ブッシュの力でベトナム戦争行きを免れたのではないかという疑惑である。ブッシュの軍歴詐称はほかのメディアも追いかけていた。メアリーのもとに、ブッシュの軍役逃れを示す1枚の書類が舞い込んだ。メアリーは書類の真偽を確かめるべく奔走するが、功を焦ったのか最後の詰めが甘いまま、ブッシュの軍歴詐称疑惑を放送してしまった。
放送後、大反響を巻き起こすが、ブロガーから「書類は偽造」と指摘され、批判が高まっていく。メアリーたちは再調査に奔走するが、書類の信憑性に疑問が残った。

170501

社の上層部は報道機関としての信用を失墜させたことで、メアリーたちを厳しく追及した。
内部調査委員会で、何人もの弁護士を前にして取材メンバーは調査を受ける。
「コピーの信憑性は?」「証言者の裏をどの程度取ったのか?」「筆跡の鑑定を行ったのか?」「なぜ、書類を真正と断じたのか?」
少しでも返答に詰まると、質問が矢のように浴びせられる。内部調査とはいえ、厳しい糾弾の場だった。

調査が終了し、弁護士たちが席を立とうとした時、メアリーは「書類の真偽」や「証言の信用性」の枝葉末節なことばかりが追求されたが、明らかにしなければならないブッシュの軍歴詐称疑惑には、少しも触れていない。何も解決されていないと調査団に噛み付く。
メアリーたちの行動は、故意に行われたものではないと判断されたが、処分は非情なだった。
メアリーたちは、圧力に屈することなくジャーナリストの矜持を貫いたが、勇み足が命取りになった。→人気ブログランキング