北斎まんだら 梶よう子
ややっこしい存在の北斎ゆえに起こる騒動を、娘のお栄や、北斎に弟子入りしようとする高井三九郎や、浮世絵師で戯作者の渓斎英泉こと善次郎たちを通して描く。
本作のキーワードは「偽北斎」。贋作と代筆がテーマである。
信州小布施の高井三九郎が浅草の北斎の家を訪ねると、応対したのはお栄であった。高井家の惣領息子の三九郎が北斎に弟子入りしたいと申し出ると、北斎はお栄に「お前がみてやれ」と命じた。お栄は「やなこった」と答えた。
三九郎が三和土に散らばった反故を手に取ると、それは、お栄が描いた枕絵だった。
この頃、絵師は名前を変えて、ご禁制の枕絵を描き小金を稼ぐのが当り前だった。
北斎まんだら 梶 よう子 講談社 2017年 |
かつて北斎家に居候していた善次郎は、美人画を書かせたら当代随一といわれ、アクの強い作風で知られていた。好色本や生々しい出来の枕絵を世に送り出していた善次郎は、北斎の家にちょくちょく顔を出す。
小布施で高井家といえば、奉公人が100余名もいる豪商なのに、その惣領息子の三九郎に、お栄は枕絵の陰毛の描き方を講釈するのだった。
北斎の代筆をするお栄に三九郎は疑問をもつ。
それにしても北斎、お栄、それとお調子者で騒々しい善次郎、とんでもない人物たちと出会ってしまったと、三九郎は思った。
枕絵と錦絵の鍾馗像の偽物が北斎作として出回っていることを、お栄たちは知る。
善次郎が贋作の犯人を突き止めようとしていると、北斎の孫・重太郎が江戸に戻ってきていることを知った。
後半は、北斎の孫・重太郎が中心となってストーリーは進む。
重太郎は北斎の長女、お栄の姉の息子。子供の頃から親に反抗し、悪い仲間と付き合って、悪事を重ねた。尻拭いために北斎が金を出していた。
悪事がばれて説教されると、泣いて謝るのだが、口先だけで、ほとぼりが冷めると悪事を繰り返した。
ついには勘当され奥州に追いやられていたが、最近、江戸に舞い戻ってきたという噂だ。
善次郎もお栄も北斎も、偽物には重太郎が絡んでいると睨んでいた。→人気ブログランキング
【絵師が主人公の歴史小説】
『北斎まんだら』梶よう子 2017年
『眩(くらら)』朝井まかて 2016年
『ごんたくれ』西條加奈 2015年
『ヨイ豊』梶よう子 2015年
『若冲』澤田 瞳子 2015年
『北斎と応為』キャサリン・ゴヴィエ/2014年
『フェルメールになれなかった男』フランク・ウイン 2014年
『東京新大橋雨中図』杉本章子 1988年
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