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2017年7月

『ミザリー』スティーヴン・キング

映画はキャシー・ベイツ扮するイカレた中年女が売れっ子小説家を監禁して、思いどおりの小説を書かせるというストーリーだった。

巻末の訳者による解説には、キングは執拗で暴挙に出るかも知れない熱狂的なファンに悩まされた経験をもとに、本作のアイデアにたどり着いたという。さらにキングは、ジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマンと一緒に写真におさまり、ご丁寧にも、その写真にサインをしているという。チャップマンはジョン・レノンと写真に収まったのち引き金を引いたのだ。

ミザリー (文春文庫)
ミザリー
posted with amazlet at 17.07.27
スティーヴン・キング/矢野浩三郎 訳
文春文庫
1990年

ポール・シェルダンは『ミザリーものでない』小説を書き上げた開放感にひたり、シャンペンをがぶ飲みしながら愛車をぶっ飛ばして西に向かった。雪道で事故を起こし骨盤と両脚を派手に骨折し瀕死の状態となった。ポールの狂信的な愛読者アニー・ウィクルスはポールを車から引きずり出して自宅に連れて帰り、点滴を施して治療したのだった。事故は2週間前だった。

がっしりした体つきのアニーは、6時間ごとにコデイン2錠をポールの口に突っ込む。
やがてポールは、アニーはポールの作品の熱烈な愛読者であること、アニーが大量の薬を持っていること、自分がコデイン中毒になっていること、アニーが異常な女であることを知った。

ポールは、『ミザリーの子供たち』でミザリーを死なせ、シリーズを完結させたばかりだった。ポールが書き上げた『高速自動車』の原稿を読んだアニーは下品だと言う。さらに『ミザリーの息子たち』で、子どもを産んでミザリーが死ぬというストーリーに、アニーは「人殺し」と叫んで怒り狂った。

アニーはバーベキュー・グリルを部屋に持ち込み、『高速自動車』の原稿に火をつけろと迫った。ポールは、泣く泣く命令に従った。
ポールはアニーの要求に応え、ミザリーを生還させることにした。
4日間で書き終えた『続・ミザリーの子供たち』の原稿をアニーに渡すと、フェアじゃないと言う。フェアな物語に書き直せという。
もちろんポールは従わざるを得ない。アニーは気に食わなければ、ポールの足首を斧で切り落とすくらいのことは、平気でやってしまう。
こうしてポールはミザリーが生還する物語の執筆に真剣に取り組むことになる。

車椅子で移動できるようになったポールは、アニーが出かけた隙に、新聞記事をファイルしたノートを見つけた。そこには看護師だったアニーがかかわった30件を越す殺人事件の記事の切り抜きがあった。
ポールはアニーが気が狂っていると確信した。そしてアニーから逃れる方法を模索するのだった。→人気ブログランキング

ミスター・メルセデス
ジョイランド
11/22/63
ダークタワー IV1/2 鍵穴を吹き抜ける風
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 下
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 上
ダークタワー III 荒地 下
ダークタワー III 荒地 上
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 下
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
書くことについて
ミザリー
幸運の25セント硬貨
1922
ビッグ・ドライバー
神々のワード・プロセッサ
夕暮れを過ぎて
いかしたバンドのいる街で
スタンド・バイ・ミー(DVD)
キャリー   キャリーDVD
ジェラルドのゲーム
ドランのキャデラック
第四解剖室

『ストラディヴァリとグァルネリ ヴァイオリン千年の夢』 中野 雄

18世紀以降のヴァイオリン製作者の目指すところは、いかにして「二大銘器」のストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェスに近づけるかということであった。銘器の秘密は、これまで徹底的に探られてきた。材料という説、上塗りのニスという説、300年の経年的変化によるとする説などがあるが、いずれも決定的なものではない。ミリ単位で同じ形に作っても本物のようには決して鳴らない。時代が才能を育んだとしか言いようがないという。

なぜ、ストラディヴァリやグァルネリ・デル・ジェスは銘器なのか。広いホールの隅々まで音がいき渡るということもあるが、楽器自体がもつ音楽表現力、それを奏でる演奏者の潜在的音楽表現力を刺激して、掻き立て、向上すら促すような不思議な「霊的」としかいいようがない力があるという。これは演奏者が実際に体験することである。

イタリアの北部の街クレモナでヴァイオリンは生まれた。ヴァイオリンの発明者には諸説があるが、アマティ家のアンドレア(1505〜79)が1550年頃、ほぼ独力で現在のような形を作り出したという。表板と裏板にアーチングをもたせ、サウンドホールとしてf字型を採用した点が画期的だった。その後ストラディヴァリもグァルネリもクレモナで工房を構えた。

誠実で温厚な性格であったアントニオ・ストラディヴァリ(1644~1737)は常に新しいことに挑戦し、良い楽器を作ることだけに人生のすべてをかけた。彼が90年を超える生涯で作製した弦楽器は約2000艇といわれている。そのうち現存するものは約600艇で、うちコンサートに使用可能なものは百数十艇である。

一方、グァルネリ・デル・ジェス(1698~1744)は、わがままで怒りっぽく、自己抑制のきかない男であったといわれている。酒飲みで女癖も悪かった。典型的な天才肌で、気が向くと寝食を忘れてにヴァイオリン製作に打ち込んだ。あるとき同業者と喧嘩して相手を殺してしまい、長い間監獄に入っていたという。生涯に作製したヴァイオリンは約200艇といわれている。
二人の天才の違いを画家にたとえ、ストラディヴァリはルーベンスやレンブラント、デル・ジェスはヴァン・ゴッホやピカソにあたるとする人がいる。

1937年イタリアのクレモナ市でストラディヴァリ没後200年顕彰の催しが行われた。クレモナ市当局は会場に展示するために、世界中のコレクター、楽器商、音楽家に手持ちの楽器の出展を要請した。集まってきたのは2000艇。ところが専門家の鑑定による結果、本物は約40艇であった。世の中には100万艇以上のストラディヴァリが存在するらしい。

1970年頃、ストラディヴァリは、3000万円程度で取引されていた。2002年頃は2億円、現在は10億を超える値段に跳ね上がった。なぜか?「楽器の値段は、ユダヤ系の楽器商が結託して吊り上げているものであって、希少価値などというものはない。錯覚や思い込みにすぎない」という説が昔から流布されている。
なぜかわからないが、擦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)の銘器の財産価値は、他に比肩するものが見当たらないほどデフレにもインフレにも強く、しかもどんどん高くなっている。→人気ブログランキング

『ヒルビリー・エレジー』 J.D.ヴァンス

アメリカの白人のうち、WAPS(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)と呼ばれる人々は、誇り高き白人という自負がある。一方、白人貧困層は、レッドネック(首筋が日焼けした白人)、ホワイトラッシュ(白人のゴミ)、ヒルビリー(田舎者)などと呼ばれている。
ヒルビリー出身の著者は、自らの半生を描くことで、大統領選でトランプ勝利の原動力となった白人肉体労働者の悲惨な状況を明らかにしている。

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち
J.D.ヴァンス/関根光宏・山田文 訳
光文社
2017年3月

18世紀に移民としてアメリカにやってきたスコッツ=アイリッシュ(アイルランド島北東部のアルスター地方から移住してきた人々のこと)は、アパラチア山脈周辺に住み着いたという。その人たちにとって、貧困は代々伝わる伝統であった。先祖は南部の奴隷経済時代には日雇い労働者として働き、その後はシェアクロッパー(物納小作人)、続いて炭鉱労働者になった。近年では、機械工や工場労働者になったという。ヒルビリーは閉鎖的な独特の文化を築いてきたという。他人とのいざこざ、場合によっては親戚同士のいざこざに、容易に銃が持ち出される。銃規制とは程遠い世界である。
ケンタッキー州東部、アパラチアの丘陵地帯ジャクソン出身の著者の家族は、自らをヒルビリーと呼んでいる。

著者は、子どものころ、勉強していい成績をとるのは、「お姫様」か「オカマ」のやることだと思っていたという。男らしさとは強さや闘いを恐れない心と、教えられた。もう少し成長してからは、女の子にモテるという項目がそこの加わった。ヒルビリーには反知性主義が浸み込んでいることがわかる。
そんな著者だったが、あるとき目覚め、高校を優秀な成績で卒業後、アメリカ海兵隊に4年間所属しイラクに派遣された。帰国後、オハイオ州立大学を1年11ヶ月で卒業した。次にイエール大学のロースクールに2年間在籍し弁護士の資格を得た。現在は、シリコンバレーの投資会社の社長を務める。

ジャクソンは、著者と姉と祖母のために存在するような場所だったという。ジャクソンにいるときは、町の誰もが知っているたくましい女性の孫であり、町でもっともいい車修理をする祖父の孫だった。一方、引っ越したオハイオでの著者の立場は、父に捨てられ、離婚と結婚を繰り返す薬物中毒の母親の子どもだったという。

世論調査の結果、アメリカで最も厭世的傾向にある社会集団は、白人労働階層である。また、アメリカのあらゆる民族集団のなかで、唯一、白人労働者階層の平均寿命だけが下がっている。さらに、アメリカでは地域により成功の可能性に偏りがあるという。貧しい子どもたちが苦境にあえぐ、南部やラストベルト(さびついた工業地帯)、そしてアパラチアでは、アメリカンドリームの実現は困難だという。

著者は次のようにヒルビリーの病理を説明する。
〈何年も後になってようやくわかったのは、どんな本も、どんな専門家も、どんな専門分野も、それだけでは現代のヒルビリーの抱える問題を、完全には説明できないということだ。私たちの哀歌は社会学的なものである、それは間違いない。ただし同時に心理学やコミュニティや文化や信仰の問題でもあるのだ。〉→人気ブログランキング

ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く /金成隆一/岩波新書/2017年

「キャロル」

映画『太陽がいっぱい』(『リプリー』1960年)の原作者パトリシア・ハイスミスの同名の自伝的小説の映画化。女性同士の恋愛を描いた作品。

1952年、クリスマスを向えるニューヨーク。
フランケンバーグ・デパートの館内に、「アイゼンハワー大統領の就任を祝って、特別販売をいたします」とアナウンスが流れる。
19歳のテレーズ(ルーニー・マーラ)は、7階のおもちゃ売り場で働いている。
ゴージャスなミンクのコートを身に纏ったブロンドのキャロル(ケイト・ブランシェット)が、4歳の娘リンディへのプレゼント用の人形を買いに来た。望みの人形がなかったので、テレーズはキャロルに、鉄道セットを勧めた。

キャロル [DVD]
キャロル
posted with amazlet at 17.07.06
Carol
監督:トッド・ヘインズ
脚本:フィリス・ナジー
原作:パトリシア・ハイスミス『The Price of Salt』
音楽:カーター・バーウェル
アメリカ・イギリス 2015年 118分

この出会いをきっかけに、ふたりは互いの家を行き来する友人となった。
テレーズは一緒にヨーロッパに行くことになっていた恋人との関係に悩み、キャロルは離婚を決めた夫と娘の親権をめぐって悩んでいた。
キャロルはテレーズが写真に興味があることを知り、高価なカメラをプレゼントした。

170707

ある日、共同親権で合意していたはずなのに、道徳的条項を盾に、夫は単独親権を主張しだした。かつて、キャロルはリンディの名付け親で、幼馴染のアビーとレスビアンの関係にあったのだ。
キャロルはリンディと引き離されてしまう悲しみから逃れるために、テレーズを車での旅行に誘った。
2週間の旅行の間に、ふたりの関係は友人から恋人へと変わっていった。
モーテルでの情交を、隣の部屋に泊まった男に盗聴されテープレコーダーに録音されてしまう。夫に雇われた男だった。

録音テープという証拠を突きつけられたキャロルは、夫に親権を渡さざるを得なくなり、面会権だけだけで引き下がることになった。
そして傷心のキャロルはテレーズとの関係を清算することにする。
関係を絶つことに一度は同意したテレーズだったが、思いを断ち切れず、キャロルに連絡をとろうとするのだった。→人気ブログランキング

『スノーデン 日本への警告』エドワード・スノーデンほか

2016年6月、東大の講堂で行われたスノーデンの講演と、それに引き続いて行われたパネル・ディスカッションを本に起こしたもの。

まずは、「スノーデン・リーク」とはなにか。
CIAに所属していたエドワード・スノーデンはイラクに対するスパイ活動ののち、NSA(アメリカ国家安全保障局、National Security Agency、アメリカ国防総省の諜報機関)の下請け会社の職員となった。スノーデンがアメリカ政府の内部資料をマスコミにリークし、これを受けて2013年6月からイギリスの「ガーディアン紙」、アメリカの「ワシントン・ポスト紙」などに一連の調査報道が掲載された。アメリカ政府による想像を超える情報収集の実態が明らかにされた。
とりわけ衝撃的なプログラムは次の3つ。
まずは電話の「バルク・コレクション」と呼ばれるもの。NSAがアメリカの電話会社に命じ、国際通信のみならず国内通信を含むすべてのメタデータを毎日提出させるプログラム。メタデータとは「誰がいつどこに電話をかけたか」というもの。通話内容は含まれない。
次はプリズム(PRIZM)と呼ばれるもので、フェイスブック、グーグル、アップルなどアメリカに本社を置く9社のテクノロジー会社に命じ、電子メールやSNSによる通信内容などを提出させるプログラム。
3つ目はアップストリーム(Upstream)と呼ばれるもので、アメリカ本土につながる海底光ファイバーなどにアクセスして、通信情報を直接入手するプログラム。

スノーデン 日本への警告 (集英社新書)
エドワード・スノーデン
青木 理 井桁大介 金昌浩 ベン・ワイズナー 宮下紘 マリコ・ヒロセ
集英社新書   2017年4月

監視が爆発的に拡大したのは、技術的に簡単になり、経済的に格安になったからである。
ホワイトハウスは、独立委員会にNSAのマスサーベイランス・プログラムを検証するように指示した。結果はプログラムは違法であって、終わらせるべきものだというものだった。
10年近くにわたり、3億3000万人の全アメリカ国民と世界中の人々の通信情報を、法的手続きを経ずに収集しながら、テロ捜査にとって有意義な情報はひとつもなかった。膨大な情報を集めてもまったく意味がないことが明らかになった。

2016年5月に、1年前に辞任したアメリカの司法長官、リーク当時、政府の司法部のトップにいた人が、スノーデンのリークは公共のためになったと述べている。
パネル・ディスカッションに参加したスノーデンの顧問弁護士ベン・ワーズナーの言葉が、いまのアメリカの危うさを表している。「トランプ政権前にスノーデン事件があったのは幸運でした」。

では日本の状況はどうかというと、日本のマスコミは危機的状況にあるという。
たとえば政府高官は次のように言う。「この報道は公平ではないように思われます。報道が公平でないからといって具体的に政府として何かをするわけではありませんが、公平でない報道は報道規制に反する可能性があります」とほのめかすだけで、マスコミは尻込みするのだ。

アメリカの内部通報制度は現在うまく機能していないとスノーデンは指摘する。内部通報制度が機能しているとすれば、それは民主主義国家としてきわめて公正だということだ。
スノーデンのリークから見えてくるのは政府は何でもやるということ。日本の共謀罪法案の論議など空論に思えてくる。→人気ブログランキング