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『ストラディヴァリとグァルネリ ヴァイオリン千年の夢』 中野 雄

18世紀以降のヴァイオリン製作者の目指すところは、いかにして「二大銘器」のストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェスに近づけるかということであった。銘器の秘密は、これまで徹底的に探られてきた。材料という説、上塗りのニスという説、300年の経年的変化によるとする説などがあるが、いずれも決定的なものではない。ミリ単位で同じ形に作っても本物のようには決して鳴らない。時代が才能を育んだとしか言いようがないという。

なぜ、ストラディヴァリやグァルネリ・デル・ジェスは銘器なのか。広いホールの隅々まで音がいき渡るということもあるが、楽器自体がもつ音楽表現力、それを奏でる演奏者の潜在的音楽表現力を刺激して、掻き立て、向上すら促すような不思議な「霊的」としかいいようがない力があるという。これは演奏者が実際に体験することである。

イタリアの北部の街クレモナでヴァイオリンは生まれた。ヴァイオリンの発明者には諸説があるが、アマティ家のアンドレア(1505〜79)が1550年頃、ほぼ独力で現在のような形を作り出したという。表板と裏板にアーチングをもたせ、サウンドホールとしてf字型を採用した点が画期的だった。その後ストラディヴァリもグァルネリもクレモナで工房を構えた。

誠実で温厚な性格であったアントニオ・ストラディヴァリ(1644~1737)は常に新しいことに挑戦し、良い楽器を作ることだけに人生のすべてをかけた。彼が90年を超える生涯で作製した弦楽器は約2000艇といわれている。そのうち現存するものは約600艇で、うちコンサートに使用可能なものは百数十艇である。

一方、グァルネリ・デル・ジェス(1698~1744)は、わがままで怒りっぽく、自己抑制のきかない男であったといわれている。酒飲みで女癖も悪かった。典型的な天才肌で、気が向くと寝食を忘れてにヴァイオリン製作に打ち込んだ。あるとき同業者と喧嘩して相手を殺してしまい、長い間監獄に入っていたという。生涯に作製したヴァイオリンは約200艇といわれている。
二人の天才の違いを画家にたとえ、ストラディヴァリはルーベンスやレンブラント、デル・ジェスはヴァン・ゴッホやピカソにあたるとする人がいる。

1937年イタリアのクレモナ市でストラディヴァリ没後200年顕彰の催しが行われた。クレモナ市当局は会場に展示するために、世界中のコレクター、楽器商、音楽家に手持ちの楽器の出展を要請した。集まってきたのは2000艇。ところが専門家の鑑定による結果、本物は約40艇であった。世の中には100万艇以上のストラディヴァリが存在するらしい。

1970年頃、ストラディヴァリは、3000万円程度で取引されていた。2002年頃は2億円、現在は10億を超える値段に跳ね上がった。なぜか?「楽器の値段は、ユダヤ系の楽器商が結託して吊り上げているものであって、希少価値などというものはない。錯覚や思い込みにすぎない」という説が昔から流布されている。
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