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2017年10月

『投資なんか、おやめなさい』荻原博子

実名入りで金融商品の嘘を暴いてしまって、著者の身の安全は大丈夫だろうかと心配になる。
投資は安いときに買って高いときに売るから、手数料を払っても、儲かるというのが大前提。客が大損しようと、会社は手数料とることで決して損することがない仕組みになっているから、あの手この手で勧誘してくる。デフレは自動的に貨幣価値が上がっているから、素人は投資に手を出さず現金を持ってじっとしているのが一番というのが結論。

投資なんか、おやめなさい (新潮新書)
荻原 博子
新潮新書 2017年9月
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著者がTVで「生命保険は、命をかけた〈宝クジ〉のようなもの」と発言したところ、生命保険協会から大クレームが来たという。
外貨建て終身保険」は、保険会社にとっては手数料を稼げるのであれこれ理屈をつけて勧めるが、入る個人にはメリットがない。3年に一度、アフターケアと称して保険のおばさんがやってくるのは、新しい保険に入れ替えてマージンを得るためである。

銀行や郵便局が、年金の代わりにと勧めてくる大人気の投資信託のスター商品「毎月分配型投信」はクズ商品と断言する。
そのカラクリは、1000万円預けると例えば毎月2万円が振込まれてくるので、危機感や投資しているという実感が持ちにくい。2016年に、1484本の「毎月分配型投信」商品のうち運用益で分配金が支払われていたのはたった2%だったという。あとは元本割れしているということだ。

投資マンション」は頭金なしでローンを組んだ場合、収支がプラスになることはない。マンションは老朽化するので、投資の対象といて失格。

個人年金保険」は、インフレになるかもしれない金利が高くなるかもれないなどの、将来の予測ができない以上、手を出さにほうがいい。
変額個人年金」は手数料が高すぎる。預けているあいだ中、手数料は払い続けなければならない。運用益が5%ぐらいないと、目減りしてしまう。
確定拠出年金」は会社で入らされるのはしかたがないとして、手を出さないほうがいい。→人気ブログランキング

巻末には、【投資に向かない人チェックリスト】【こんな金融商品、勧誘に要注意、チェックポイント】が付いている。

『米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』ケント・ギルバート

北朝鮮がミサイルを発射し核実験を行い、軍拡を進める中国が国境の現状変更を画策する状況の中、日本がいつ有事に巻き込まれてもおかしくないことは、日本人なら誰もが実感していることだ。軍事的に日本人自らを縛る憲法がこのままでいいのか。日本をこよなく愛する著者が、憲法改正の必要性を多角的な視点から舌鋒鋭く説く。

第9条第1項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第2項:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

日本国憲法はGHQが作ったのは明確である。GHQがこの事実を正式に認めて、憲法草案執筆の経緯を詳しく書いて出版している。占領する側は占領先の法律を守るべきで、占領先の憲法を制定するなどということは、戦時国際法の明白な違反である。
こうした事実は日本人に知らされなかった。この状況を可能にしたのは、GHQが命じたプレスコード(報道規制)と、この規制の遵守状況のために行われた検閲、アメリカに二度とは刃向わない国民にするたの、「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」の効果である。
「日本国憲法は素晴らしい」「第9条のおかげで日本は平和だ」と小中高の教科書で教えられ、刷り込まれたのだ。

米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体 (角川新書)
ケント・ギルバート
角川新書  2017年6月
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多方面から、日本国憲法はおかしいと指摘されている。国際法に違反した制定過程、翻訳調のこなれていない日本語、GHQによる押しつけ憲法、素人が寄せ集めで作ったコピペ憲法などと批判されているが、いずれも事実である。
日本国憲法の内容は国際標準に近いごく普通の憲法だという。「日本国憲法を世界遺産に」という発想は、憲法の国際標準を知らない人の言う戯言である。
日本国憲法には、決定的におかしいところが二つあるという。
それは元首の規定がないことと、もうひとつは軍隊の保持を禁じた第9条第2項。

パラサイト的な甘い考えが許される時代は終わった。アメリカ人全員が、アメリカは日本のために戦うべきだ」と思っているはずがないというのは当たり前のことだが、一部の日本人は現実を見ようとはしない。アメリカにおんぶにだっこの時代は終わったのだ。
まずは憲法9条第2項を削除して国防軍を整備し、専守防衛の方針も見直して、一刻も早く敵基地攻撃能力を備えるべきだとする。 →人気ブログランキング

米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体/ケント・ギルバート/角川新書/2017年
儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇/ケント・ギルバート/講談社+α新書/2017年

『ヒトは「いじめ」をやめられない』中野信子

いじめは人類の進化にとって必然であるという。
人間は共同体を作る戦略で生き延びてきた生物種。社会的排除は人間という生物種が、生存率を高めるために進化の過程で身につけた機能であるというのが、著者の意見である。

社会集団にとって最も脅威になるのは、フリーライダーの存在。フリーライダーとは、協力行動をとらない、邪魔をする人、ズルをする人。
フリーライダーを見つけた場合は、制裁行動を起こして排除しようとする機能が脳に備え付けられたという。

ヒトは「いじめ」をやめられない (小学館新書)
中野 信子
小学館新書  2017年10月
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向社会性とは社会のために何かしよう、他人のために役立とうと行動する性質のこと。この向社会性が高まりすぎると、除外感情の高まりと制裁行動が発動すべきでない時に発動してしまう。
これがいじめが発生する根源にあるメカニズム。
集団が持っている正義と個人が持っている正義が対立したときに、個人の倫理観は集団の正義に乗っ取られてしまう。

相手を攻撃することは通常あまり良くないことだと理性的には理解しているが、人間の脳はその理性的なブレーキを上回るほど攻撃することによる快感を感じるようにプログラミングされている。

いじめが多いのは小学校高学年から中学2年生の頃。この時期から脳内ではブレーキ機能といえる前頭前野が育ってくる。ブレーキ機能が成熟するのは30歳前後。
子どもは無邪気で天使のような心を持っていると考えるのは、大人たちの懐古趣味的な幻想である。子どもは成熟していないヒトであるという現実を認識する必要がある。

いじめの対応策を考える上で、いじめは常にある、人の集まるところには必ず起こりうるという意識を持つことが大切である。不寛容は理性や知性によって克服できるはずだと考える人がいるかもしれないが、脳の仕組みからそれは極めて困難である。
この自己を認識する力がメタ認知力である。メタ認知力を身につけることができる環境づくりが、いじめ防止・抑止につながるのではないか。→人気ブログランキング

ヒトは「いじめ」をやめられない/中野信子/小学館新書/2017年
サイコパス/中野信子/文春新書/2016年

『核大国ニッポン』堤 未果

世界の核兵器と原発を論じている。
LAタイムズに、2016年8月、映画監督のオリバー・ストーンらによる原爆投下に関する意見が掲載された。解禁された公文書に基づく見解である。
「アメリカ人がこれまで学校で教えられてきた、原爆投下を正義だとする歴史が事実ではないこと。原爆投下ではなく、ソ連軍の日本への侵攻が戦争を終わらせる要因であったこと。連合国側の諜報機関がそれを知っていたにもかかわらず、政治的理由から原爆を投下したこと」
この記事は米国内に大きな波紋を呼んだが、自国の名誉を貶める「修正主義」と批判する意見もあった。

スミソニアン航空宇宙博物館の館長らは、広島に原爆を投下したB29の展示を原爆投下の歴史的背景を知らしめる機会にしたいと考えた。ところが多くの反対で内容の変更を余儀なくされた。

核大国ニッポン (小学館新書)
核大国ニッポン
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堤 未果
小学館新書
2017年8月

2009年4月プラハで、オバマ大統領が「核なき世界」を訴える演説を行った。同年10月、オバマはノーベル平和賞を受賞したが、オバマは果たしてノーベル賞に値することを行ったのか。
今ある核兵器を近代化するためにオバマ政権がつけた予算は向こう30年間で1兆ドル(100兆円)である。オバマは古いものを減らしながら、安全で効果的な核は維持すると明言している。米露両国は、その8割が劣化して使い物にならなくなった核弾頭をせっせと在庫整理し、削減したと発表して政治アピールを行っている。
オバマは「核を減らしていつかゼロにできるといいね」と言っただけ。ノーベル賞委員会がオバマを買いかぶったのだ。

劣化ウランとはウラン238を含む原発からの廃棄物。劣化ウランで作られた砲弾は、分厚い戦車の剛板を貫通し、ガス化するときの高熱で戦車の兵士を即死させ、放射性物質を放出する。
アメリカは劣化ウラン弾の使用によってイラクとアフガニスタンを放射能まみれにした。イラク戦争がもたらした最大の悲劇は、「がん」と「障害児」。給付有資格者のイラク帰還兵50万4千人中、約半数が体調不良を訴え、37%は病気や障害で就労不能。
劣化ウラン弾は核兵器廃絶の削減リストに入っていない。劣化ウラン弾を核兵器とするよう、定義を変える必要がある。

2011年3月の福島第一原発の事故は、核兵器と原発が危険な双子であることを世界に知らしめた。もはや日本が唯一の被爆国ではない。
チェルノブイリの原発爆発によるウクライナも、劣化ウラン弾が投下されたイラクもアフガニスタンも、使用された劣化ウラン弾で帰還兵が健康被害に苦しむアメリカも被曝国である。→人気ブログランキング

『宇宙探偵 マグナス•リドルフ』 ジャック・ヴァンス

本短篇集に収録されている作品は、主に1948年から1952年に発表されたと「訳者あとがき」で紹介されているが、古さを感じるどころか斬新ですらある。訳者の才も関係すると思うが、AIすら存在する現在に斬新と感じられるのは、時代を先取りするアイディアがそこらじゅうに散りばめられているからだ。

宇宙探偵マグナス・リドルフ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)
ジャック ヴァンス
浅倉久志・酒井昭伸  訳
国書刊行会
2016年

マグナス・リドルフは、白髪・白髭でスラリとした体型の哲学者然とした中年過ぎの男。悪党どもは「老いぼれ山羊」と陰口を叩く。
頭脳明晰で、身に降りかかる難題や危機を、常人なら想像だにしない方法で切り抜ける。それだけでは収まらず、悪人どもに再起不能のダメージを与えて締めくくる。
マグナス・リドルフは、分不相応な巨額の投資を行い投資した分を回収できないことがしばしば。収支はいつも赤字で、金をかせぐためにTCI(地球情報局、テレストリアル・コー・オブ・インテリジェンス)に依頼される、非公式エージェントとしての活動する。言ってみれば宇宙をまたにかけたその日暮らしの探偵稼業である。

登場するのは、魑魅魍魎のごとき異星人と人間。
異星人たちの奇怪な姿がなんとも不思議な味わいを醸し出す。
意表をついた奇妙ながらリアルな異世界を舞台に、異星人たちと癖の強い人間たちが織りなす物語には、著者特有の気障な風あいが加味されている。→人気ブログランキング

収録されているのは以下の10篇。
「ココドの戦士」「禁断のマッキンチ」「蛩鬼乱舞」「盗人の王」「馨しき保養地」「とどめの一撃」「ユダのサーディン」「暗黒神降臨」「呪われた鉱脈」「数学を少々」

『スペース・オペラ(ジャック・ヴァンス・トレジャー)』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2017年
宇宙探偵マグナス•リドルフ』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2016年
『天界の眼:切れ者キューゲルの冒険』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2016年
『奇跡なす者たち』ジャック・ヴァンス/国書刊行会/2011年

『ねじ曲げられた「イタリア料理」』 ファブリツィオ・グラッセッリ

著者はかつて日本の大手ゼネコンに建築家として1年間招聘された。日本が気に入り、慶応大学で都市論や建築史・西洋美術史を教えたり、イタリアの食や文化についての本を書いたりマルチな活躍をしている。ダンテ・アリギエーリ協会の東京支部長。
本書はイタリアの食についての近代史。

まずはトマトについて。
16世紀新大陸からヨーロッパにもたらされたトマトは、18世紀の半ばに初めて貴族の食卓に上り、19世紀の終わり(日本では明治の中頃)に、やっとイタリアの南部でトマトソースが登場した。トマトの水煮缶詰が市場に出回るようになり、イタリア料理にトマトソースが定着した。
フランス人科学者のパスツールが発明した低温加熱殺菌法(パスツール法)により、トマトの水煮缶詰が可能になった。

ねじ曲げられた「イタリア料理」 (光文社新書)
ファブリツィオ・グラッセッリ /水沢透 訳
光文社新書
2017年9月

次はピッツァ。
ピッツァの元祖は壊れたようなパンに具材を乗せ塩を振りかけたもので、ナポリの日雇い労働者のファーストフードだった。「現代ピッツァの誕生」は、1889年、王妃マルガリータがナポリを訪問したときに、庶民の食べ物を所望したことによる。
バジリコとモッツァレラとトマトソースで、新しい国として統一された(1871年)ばかりの三色旗を表した。のちに「マルガリータ」と呼ばれる創作ピッツァが献上されたのである。しかし、この三色旗ピッツァはイタリヤではあまり広まることはなかった。
ピッツァを広めたのはアメリカのイタリア人移民である。1905年にニューヨークでピッツェリアが売り出した三色旗ピッツァが、瞬く間に全米に広がった。
イタリアにマルガリータを広めたのは、第二次世界大戦で敗戦したイタリアに駐留したアメリカ人兵士である。またイタリアで伝統的なピッツァが広まったのは1970年代に入ってからのこと。
ちなみにピッツァの消費量は、ノルウェーが1位、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリアの順、日本は9位。

オリーブオイルについて。
まだ熟していないオリーブから生産されるエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルは、かなり最近になって登場した。その基準をEUが1991年に規定し、化学的な処理を行わず、他のオイルを混ぜることなく、酸度が0.8g以下(ヴァージンオイルは2.0%以下)のもので、苦味とピリピリした辛味が強い。
なお日本のエクストラ・ヴァージンのJAS規定は酸度が2.0%以下。
1960年代までイタリアでは、食用油としてラードやバターが用いられていた。オリーブオイルは、熟したオリーブから作る味がライトなものが用いられていた。1970年代に入ってイタリア料理が世界に普及し始めた頃、アメリカのイタリア系移民がイタリア料理に影響を及ぼした。エクストラ・ヴァージン・オイルを用い、それ以前のイタリア料理に比べて、素材に火を通しすぎない「クチーナ・モデルナ」と呼ばれる現代風のイタリア料理が流行った。
EUの規制では、エクストラ・ヴァージン・オイルとヴァージン・オイルは、原産地と製油所を明記することが義務付けられている。ただイタリア産という表記しかなかった場合には、イタリア国内で瓶詰めしただけという製品かもしれない。さらに、日本ではエクストラ・ヴァージン・オリーブオイル至上主義がまかり通り、偽装がほどこされた製品が出まわっている可能性が高い。

次はエスプレッソについて。
イタリア式コーヒーが、他のどこの国とも違ったアロマと独特な味わいを持っているのは確かだと著者は言う。エスプレッソ、カプチーノ、カフェラテ、マキアート、バリスタ、さまざまなイタリア語がいまやカフェ文化の「公用語」として用いられている。コーヒーが西洋世界に伝わったのはヴェネツィアが最初だった。近代コーヒー文化はイタリアで誕生したといっても過言でない。

イタリア人が自国の食に誇りを感じるようになったのは、そんなに昔のことではないという。いまや食に最も厳しい目を持っているのはイタリア人ではないだろうか。
日本で売られているハムの添加物の多さを例に挙げ、食の安全に関して、日本人はもっと関心を持つべきと提言する。→人気ブログランキング

『冬のフロスト』R.D.ウィングフィールド

フロスト警部シリーズはストーリーの大枠がパターン化されている。
順序が逆のこともあるが、女性(今回は売春婦)の連続殺人事件が起き、次に少女の誘拐事件が起きる。
フロストが狙いをつけた容疑者(今回は夜ごと娼婦を漁る歯科医)が連行され尋問をうけるが、フロストの説はことごとく覆される。
シリーズごとに、デントン署内に個性豊かな警官(今回は強烈な上昇志向の持ち主の女性リズ・モード警部代行)が配置され、フロストとの間に何かと軋轢を生じる。一方、見栄っ張りでいけ好かないマレット署長は、フロストをデントン署から追放しようとあらを探している。フロストの手柄を横取りしようと、何かと口出しもする。超過勤務手当をなんとか安く押さえようと躍起となっている。
そんな、なか別の殺人事件(今回は古い人骨)が起こり、フロストたちは多忙の極地に追い込まれる。
なにかの拍子に、それはページでいうと大体3/4のところで、五里霧中だった事件がひとつ解決する(今回は人骨事件)。そのあと芋づる式に解決するかと思いきや、足踏み状態となり紆余曲折を経て、フロストはなんとか事件を解決に持っていくというのが、シリーズのパターンである。

チェーンスモーカーでズボラで不潔だが愛すべきフロストが、ヨレヨレになりながらも、見込み違いの捜査をしてくじけそうになるが、アイディアを絞り出して、あるいは神からの啓示のようなひらめきに助けられ、なんとか事件を解決に導くというのがパターンである。そんなストーリー展開にもかかわらず、どの作品も引き込まれてしまうのだ。

冬のフロスト 上 (創元推理文庫)
冬のフロスト 上
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R.D.ウィングフィールド
/芹澤恵訳
創元推理文庫
2013年6月 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
冬のフロスト 下  (創元推理文庫)
冬のフロスト 下
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R.D.ウィングフィールド
創元推理文庫

『冬のフロスト』なので、架空の街デントンの冬がどの程度に厳しく描かれるのか大いに興味があったが、気候に関する描写が少なく、少しばかり残念である。→人気ブログランキング

フロスト始末
クリスマスのフロスト
フロスト日和
夜のフロスト
冬のフロスト
フロスト気質
夜明けのフロスト

『院長選挙』久坂部 羊

大学病院長の急死を機に繰り広げられる、4人の副院長の選挙戦と殺人犯探しがテーマ。
天都大学病院の院長が急死して、新しい院長を選ぶ院長選が行われる。そんなおりフリーライターの吉沢アスカは「医療崩壊」をテーマにしたノンフィクションを書こうと取材のため、天都大学病院循環器内科の徳富教授の部屋を訪ねた。
4人いる副院長のなかでもっとも院長に近い人物と目される徳富教授は、「臓器ヒエラルキー」による循環器内科至上主義を口にしてはばからない。心臓を扱う内科が一番えらいに決まっているというのが口癖である。かつてヨーロッパでは外科は床屋を兼ねていたし、看護師は売春婦を兼ねていたと言ってはばからない。

院長選挙
院長選挙
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久坂部 羊
幻冬舎
2017年8月 ☆☆☆☆☆

アスカはもうひとりの副院長・消化器外科の大小路教授にインタビューする。大小路教授は、おのれの手術技量に自らがアートと惚れこむほど自信を持っているうぬぼれ屋だ。
大小路教授も、たかが◯◯科という上から目線の「医療科ヒエラルキー」に凝り固まっている。聴診器をあてて薬を出しているだけの内科より、消化器外科が上だとうそぶ。

次は、若手の改革派、副院長の整形外科の鴨下教授は「天都大の狂犬」と呼ばれる激しい性格の持ち主である。大学病院の研究と診療を分けることと、内科と外科の整形外科蔑視に怒りをまくしたてた。

最後は、「銀髪の守銭奴」と呼ばれる眼科の百目鬼教授は、最年長の副院長で白内障を手術しまくる病院の稼ぎ頭であるが、周りから大顰蹙を買うドケチである。

前院長が夜中に突然死したとき夫人は救急車を呼ばす、まず准教授を呼んだ。そして准教授は4人の副院長を呼び、循環器内科の徳富教授が心房細動発作による死と断定した。前院長は病院経営に悩んでいたから自殺説もあるが、病院改革達成のため続投の意思表示をしていたから他殺説もある。

看護部長は4人の副院長をボロクソにこき下ろした。
それとは対照的に、低姿勢な事務部長は4人への歯が浮くような賛辞を並べ立てる。
大学病院という閉鎖社会において、診療科や職種のそれぞれの思惑を大いに誇張させながらストーリを展開させる。読者をさもありなんと納得させる著者の医師ならでは視点が冴えている。→人気ブログランキング