モラルの起源 実験社会科学からの問い 亀田 達也
イントロでは、2015年6月の文部科学省通達に触れ、文系を廃して理系に軸を移しつつある国の政策を憂えんでいる。それならば文系学部の底力を見せてやろうという意気込みで「実験社会学」という新しい研究分野を開拓する試みが、本書の目的だという。
「実験社会学」とは〈経済学、心理学、政治学、生物学など、異なるバックグランドをもつ研究者たちが結集し、実験という共通の手法を用いて、人間の行動や社会の振る舞いを組織的に検討しようとする共同プロジェクト〉だという。
![]() 亀田 達也 岩波新書 2017年 |
集団意思決定は、ミツバチやアリなどの社会性昆虫のほかにも、魚類、鳥類、哺乳類、霊長類などでかなり広く認められる現象である。
規範といえそうなものは、他の動物にも見られるということである。
生物種としてのヒトにとっての最大の適応環境とは、群れ生活を選んだことであるという。
霊長類学者のダイバーが霊長類の大脳皮質を比べたところ、群れのサイズが大きい種ほど大脳新皮質が大きい。
個体間のだましだまされが頻繁に見られるほど、新皮質が大きい。
そして、既存の実験をいくつか挙げる。
実験はなるほどと思わせる工夫が凝らしているものが紹介され、意外性のある結果は導き出されていない。
新しい分野を歩き始めたという著者の高揚感が伝わってきて、読み物として引き込まれる。既存の論文を集めて解説を行っているが、このような手法は、マスコミに頻繁に登場するの人気の脳科学者たちが、すでに行っていることと変わらない。大上段に構えすぎではないだろうか。→人気ブログランキング
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