« 『モラルの起源 実験社会科学からの問い』亀田 達也 | トップページ | 『紙の動物園』ケン・リュウ »

『トラクターの世界史』藤原辰史

トラクターを通して見た近代農業史である。
20世紀に入ると、農業革命ともいうべき変化が各国に起こった、あるいは起こらざるをえなかった。その主役はトラクターであり、トラクターはそれぞれの国の農業形態に適合した仕様で発達し改良が加えられていった。
トラクターの歴史から眺めると、資本主義陣営と社会主義陣営の壁は、それほど高くも厚くもないという。

トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち (中公新書)
藤原 辰史
中公新書 2017年9月
売り上げランキング: 3,078

1892年、アメリカ・アイオワ州のJ.フローリッチというドイツ系アメリカ人技師が内燃機関を搭載したトラクターをはじめて開発した。それ以前にイングランドで、蒸気機関を動力に用いたものがあったが、重量がありすぎ爆発事故が起こったりして実用的ではなかった。

トラクターは家畜のように糞尿を排出しないから、大量の肥料を農場外から購入しなければならなくなり、有史以来続いていた農場内の物質循環は壊れ、農業は変貌せざるをえなくなった。

アメリカでは、1920年代にトラクターを中心とした農業機械が普及して、農業生産力が著しく上昇した。しかし過剰生産により農作物の値段が下落し、経営不振で農地を手放す農民が続出した。
スタインベックの『怒りのぶどう』には、トラクターが農民たちに襲いかかる魔物のように描かれている。

農業経営の大規模化はアメリカでは銀行主導で、ソ連では国家主導で行われた。
ヨーロッパ諸国のトラクターの普及はアメリカやソ連より小規模だった。ドイツでは狭い耕地用の小さなトラクターが独自に開発された。イタリアでは自動車メーカーの前身となる企業がトラクターを製造した。
第二次世界大戦になると、ほとんどのトラクター企業が戦車の製造を行った。

共産圏において、農業改革は為政者のもっとも重要な課題だった。くしくも、トラクターはソ連では「鉄の馬」と呼ばれ、中国では「鉄牛」と呼ばれた。

日本は、20世紀前半はトラクター後進国、後半は先進国へと劇的な変貌を見せた。
トラクターはさまざまな農作業に対応できることを目指し、着実に改良されていった。
細かい要求を可能にする技術を開発するのは、日本人の得意とするところだった。→人気ブログランキング

« 『モラルの起源 実験社会科学からの問い』亀田 達也 | トップページ | 『紙の動物園』ケン・リュウ »

歴史」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/151032/66049725

この記事へのトラックバック一覧です: 『トラクターの世界史』藤原辰史 :

« 『モラルの起源 実験社会科学からの問い』亀田 達也 | トップページ | 『紙の動物園』ケン・リュウ »