紙の動物園 ケン・リュウ
本書は、2015年に発刊された『紙の動物園』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)を、文庫2冊に分割したものの1冊。
ケン・リュウの短篇は説明を極力省いてストレートに表現される。そのため、展開にスピード感がある。テーマはSFの枠を越えて幻想的な世界にも広げている。非凡な才能だ。中国系アメリカ人らしいテーマが選ばれている。
![]() ケン・リュウ/古沢嘉通 編訳 ハヤカワ文庫 2017年 |
「紙の動物園」
父は中国人の母をカタログで買ってコネチカットの片田舎に連れてきた。母は僕に折り紙で動物たちを作ってくれた。
大学生の頃、母は癌で亡くなった。
社会人になり、箱に入った動物の折り紙を見つけた。虎の折り紙は中国語で書かれた僕宛の母の手紙だった。そこには、中国の家族のこと、母が父に買われるまでのこと、コネチカットに来てからのこと、幼い僕のこと、思春期の僕のこと、母の願いが書かれていた。
「月へ」
北京の暑い夏、泣き叫ぶお前をおぶって木をよじ登り月に着いた。月は涼しく、お前は泣き止んだ。ところが田舎者の我々は歓迎されていないようだった。
お前はいま中国系難民のための弁護士をしている。月はアメリカのことだ。
「結縄」
5年前、ト・ムというアメリカの好青年が村に来て、写真を撮り、草花を採取し、村人から情報を得て金を払った。
干魃になると、村人に信頼されたト・ムは干魃に強い稲の作付けを勧めた。予想を上回る収穫が得られたものの、種籾には特許がついていた。
「太平洋横断海底トンネル小史」
日本から米国に通じるの海底トンネル掘削の話。
「心智五行」
細菌が完璧に駆除された高度文明社会に属するタイラは、宇宙船の故障により未調査の惑星に不時着する。原住民の看病により一命をとりとめめたタイラの腸に、細菌叢(フローラ)が形成され、タイラは冒険的に衝動的になり恋をする。
他2篇、「愛のアルゴリズム」「文字占い師」。→人気ブログランキング
→『紙の動物園』
→『もののあわれ』
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