がん光免疫治療の登場 永山悦子 小林久隆(協力)
NIH(米国立衛生研究所)の小林久隆博士が開発した「光免疫治療」の臨床治験が、2018年3月から国立がん研究センター東病院で始まろうとしている。
「光免疫治療」は化学物質を結合させた分子標的薬(抗体)を静脈注射すると、薬ががん細胞と結びつき、それに近赤外線を当てると、化学物質が反応してがん細胞を破壊するというもの。アメリカで2015年に始めた治験では、他の治療で効果が認められなかった15人に行われ、14人でがんは縮小し7人はがんが消失したという。
がん光免疫療法の登場──手術や抗がん剤、放射線ではない画期的治療 永山 悦子 小林久隆(協力) 青灯社 2017年 |
化学物質とは、新幹線などの車体の塗料に含まれる物質を水酸化させた「IR700」。「IR700付き抗体」を注射すると、抗体は全身のがんにたどりつき細胞膜にくっつく。そこに体外から近赤外線を当てると、「IR700」が水に溶けない性質に戻り細胞膜に傷がつく。細胞膜の傷から水分が入り込み、がん細胞が破壊される。この働きから「IR700付き抗体」を「ナノ・ダイナマイト」と名付けた。
細胞膜に1万個以上の傷がつくと、がん細胞が破壊されることが分かった。
この治療の利点は副作用が少ないことである。
がん細胞が破壊されると免疫の司令塔である免疫樹細胞ががんの存在に気づき、がんを攻撃する免疫の仕組みが作動し始める。がん細胞が破れない死に方では、樹細胞ががん細胞の死に気づかず免疫は誘導されない。
もうひとつの方法は、制御性T細胞を破壊する方法である。がん細胞が増殖するのは、体内の異物を攻撃する免疫が手出しできないように守られているためである。このがん細胞を免疫の攻撃から守っている「門番役」が、制御性T細胞。
制御性T細胞をピンポイントで攻撃した場合、目覚めたT細胞やNK細胞は制御性T細胞が守っていたがん細胞を攻撃するが、正常な細胞は攻撃しない。従って副作用は起こらない。
いったん目覚めたT細胞は、再び制御性T細胞と出会っても眠りにつくことはない。だから転移がんの周りに集まった制御性T細胞に邪魔されることなく、離れた場所のがん細胞も攻撃、破壊し続けることができると考えられる。
転移性がんが大きかったり、全身に散らばったりしている場合は、複数の場所のがんで制御性T細胞を破壊し、多くの攻撃型のT細胞を目覚めさせることで、一層攻撃力を高める方法が考えられているという。
オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤を投与すると、がんを攻撃する免疫のみならず全身の免疫の働きが高まるため、自己免疫反応が避けられず、急性の間質性肺炎やⅠ型糖尿病など様々な副作用を起こす可能性がある。事実、副作用例が報告されている。
米国で治験を開始するための資金がなく足踏みしていところ、楽天の三木谷会長が資金提供をして研究の後押しをしたという。
ところで、光免疫療法の費用は10数万から数十万円と小林博士は見込んでいる。ちなみにオプジーボは3500万円。
小林博士の見通しによれば、「がん光免疫治療」は2〜3年後に厚労省の認可を得られ、10年以内には7〜8割のがん患者が使える抗体をそろえることができるようになるという。→人気ブログランキング
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