銀河鉄道の父 門井慶喜
宮沢賢治の父・政次郎を通して賢治の生涯を描いた作品。
大人になりきれない賢治に、厳しいんだか甘いんだか、政次郎は過度に干渉したり突き放してたりして接した。
政次郎自身は中学に進みたかったが、「質屋に学問は必要ねぇ」と言う父親に従った。
その反動か、政次郎は、毎年夏に花巻に浄土真宗の講師を招いて講習会を開き、その資金的な面倒を長年みていたのだ。
第158回直木賞(2017年度下半期)受賞作。
銀河鉄道の父 門井 慶喜 講談社 2017年 ✳︎10 |
賢治は尋常小学校の頃は神童と呼ばれたが、盛岡中学では成績が中より下だった。賢治が進んだのは政次郎が期待した一高や仙台二高ではなく、盛岡農林高等学校だった。卒業すると研究員として残った。
それまで、賢治が望んだ職業はイリジウム探し、次は飴工場、そして人工宝石製造であった。荒唐無稽な夢を追いかけようとしていた。政次郎はもちろん許可しない。
突然、賢治は日蓮宗系の宗教団体・国柱会に入会したと言い出した。
代々宮沢家が信仰してきた浄土真宗ではない。そして連夜、政次郎と賢治の激論と喧嘩腰の怒鳴り合いが続く。要するに、賢治は誰かにかまってほしいのだ。
賢治は国柱会に奉仕する目的で上京するが、7か月後に妹トシが病気なって、大きなトランクを下げて、花巻に戻ってきた。トランクには、東京で書いた原稿がどっさり入っていた。
2歳年下のトシに対する賢治の態度は兄妹愛を超えたものがあった。病気の介護と称して、トシのもとを訪れる。「通い婚みてだな」と末娘のクニが言うのを、政次郎は内心その通りだと思った。
雑誌に賢治の童話が掲載された。なんで童話なのか。賢治は子どもなら相手に出来るが大人はできない。自分は質屋の才能がなく、世渡りの才がなく、強い性格がなく、健康な体もなく、おそらく長い寿命がないと思っている。
トシはどんどん弱っていく。子どもの頃のように、賢治は童話を作ってはトシに読んで聞かせた。
トシはみぞれの降る日に亡くなった。
トシの臨終の床に賢治がいなかったのは、「あめゆじゅとてきてけんじゃ」というフレーズが出てくる「永訣の朝」というタイトルの詩を書くために、席を外したことを政次郎は見抜いていた。
そして賢治は結核で病床に伏した。町会議員も辞め質屋も閉めた政次郎は、賢治専属の秘書のようになった。→人気ブログランキング
新撰組の料理人/門井慶喜/光文社/2018年
マジカル・ヒストリー・ツアー/門井 慶喜/角川文庫/2017年
銀河鉄道の父/門井 慶喜/講談社/2017年
家康、江戸を建てる /門井慶喜/祥伝社 2017年
« セブンーイレブン 黄金の法則 吉岡秀子 | トップページ | 家康、江戸を建てる 門井慶喜 »
「直木賞」カテゴリの記事
- 木挽町のあだ討ち 永井紗耶子(2023.10.20)
- 凍える牙 乃南アサ(2021.11.22)
- 生きる 乙川優三郎(2020.03.04)
- 『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』 大島真寿美(2019.08.26)
- 恋歌 朝井まかて(2019.05.01)
コメント