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『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子

本書のタイトルは、宮沢賢治の詩集『永訣の朝』の中に収められている詩の一節からきている。死にゆく妹への想いを詠んだ詩「あめゆじゅとてちてけんじゃ(雨雪を取ってきてちょうだいの意味)」のなかで、妹が発した言葉「Ora Orade Shitori egumo」からとった。詩ではこの言葉だけがローマ字になっている。

本書は、青春小説と対照的な玄冬小説であるという。玄冬とは古代中国の五行思想で冬のこと。ひとりで生きていく意味を自問自答し続ける桃子さんの心のうちを描いた作品。東北弁がことのほか効果的に使われている。

 

おらおらでひとりいぐも

おらおらでひとりいぐも

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若竹千佐子
河出書房新社  2017年11月
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東京オリンピックのファンファーレを背中に聞いて東北から上京した24歳の桃子さんは、食堂の住み込みとして働きはじめた。客として現れた周蔵と、東北弁がきっかけで付き合い結婚をした。娘と息子に恵まれふたりを育て上げた。ところが早くに最愛の夫を亡くしてしまい、今はひとりで暮らしている。

73歳の桃子さんは標準語を使っていたが、この頃は頭の中で東北弁が溢れている。東北弁をしゃべるいくつもの柔毛突起が、頭の中であれこれ意見を出す。桃子さんは理詰めで物事の意味を考えたいタイプだ。こころの中では結構多弁なのだが、現実の他人の前では失語症を患う人のように何もしゃべれない。

夫が死んで、それまで現実の世界しかないと思っていたが、夫が行った「別の世界」があると思えるようになった。
タイトルの「おらおらでひとりいぐも」は、「夫のいる別世界に行く」と捉えるのが順当だが、「これからもひとりで生きて行く」という桃子さんのささやかな決意にとることもできる。もはや青春のように、前に突き進むような威勢のいい状況ではないのだ。

桃子さんは、周蔵の死を悲しんでいるばかりでなく、喜んでいる自分もいることに気づいた。
ひとりで生きてみたかった。それを周蔵がはからってくれた。それが周蔵の死を受け入れるための意味だと桃子さんは考えた。
第158回芥川賞受賞作(2018年1月)。

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