地下鉄道 コルソン・ホワイトヘッド
南北戦争を数10年後にひかえたアメリカの南部諸州が舞台。アメリカの暗黒の歴史を、SFの要素を加味して描き出す。
女奴隷のコーラは、シーザーに誘われてラヴィーとともにランドル農場を脱走した。途中で野豚狩りの白人たちに出くわしラヴィーが捕まった。コーラは逃げおおせたが、少年と格闘したさいに重傷を負わせ、白人殺しのお尋ね者として手配されることになった。
ランドル農場の主人は、シーザーとコーラの2人に高額の懸賞金をかけ、執拗に連れ戻そうとする。捕まれば、他の奴隷たちの見せしめに、とびきり派手な拷問と死が待っているのだ。コーラの想像を絶する過酷な逃亡劇が描かれていく。
![]() コルソン・ホワイトヘッド/谷崎由依 訳 早川書房 2018年 |
コーラはアフリカから連れてこられて3代目の奴隷で、身寄りがない。母のメイベルが8歳のコーラを置き去りにして農園から脱走したからだ。メイベルは未だに捕まっていない。
コーラをはじめ、脱走を持ちかけたシーザー、サウス・カロライナでコーラに隠れ家を提供した白人の妻エセル、2メートル近くもある大男の奴隷狩り人リッジウェイの、ファミリー・ヒストリーが綴られている。ファミリー・ヒストリーが描かれることによって、物語に深みが出ている。
リッジウェイがコーラを執拗に追いかけるのは訳がある。ランドル農場で脱走を成功させた唯一の人間がコーラの母親である。コーラが引き継いでいる特別な血を、根絶やしにする必要があるのだ。
地下鉄道には、駅があり機関士と呼ばれる人物がいて、機関車が走っていることになっている。しかし、実際には鉄道があるわけではなく、地下鉄道は逃亡奴隷たちを逃がすためのネットワーク(秘密結社)のことである。ネットワークにかかわっていることが知られてしまえば、処刑される。
地下鉄道に乗ることができたからといって、奴隷州から脱出できるとは限らないが、地下鉄道は逃亡奴隷にとって北に逃れる唯一の手段なのだ。
ピューリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞受賞作。さらに英ブッカー賞の候補でもあった。
→人気ブログランキング
« ノーベル賞の舞台裏 | トップページ | セブンーイレブン 黄金の法則 吉岡秀子 »
「歴史」カテゴリの記事
- 「京都」の誕生 武士が造った戦乱の都 桃崎有一郎(2021.11.13)
- アフリカで誕生した人類が日本人になるまで(新装版) 溝口優司(2020.11.11)
- 感染症の日本史 磯田道史(2020.11.04)
- 京都まみれ 井上章一(2020.08.07)
- 炎の中の図書館 スーザン・オーリアン(2020.05.29)
「アメリカ」カテゴリの記事
- キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー(2022.05.21)
- ショート・カッツ(2021.08.06)
- ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか 朝日順子(2021.07.23)
- アメリカ炎上通信 言霊USA XXL 町山智浩(2020.09.10)
- アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2 町山智浩(2020.09.03)
「SF」カテゴリの記事
- タウ・ゼロ ポール・アンダースン(2020.11.17)
- 火星のレディ・アストロネート メアリ・ロビネット・コワル(2020.10.26)
- 宇宙(そら)へ メアリ・ロビネット・コワル(2020.10.17)
- 三体 Ⅱ 黒暗森林 劉 慈欣(2020.07.10)
- 復活の日 小松左京(2020.05.19)
「ピューリッツアー賞」カテゴリの記事
- キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー(2022.05.21)
- マーチ家の父親 もうひとつの若草物語 ジェラルディン・ブルックス(2022.01.27)
- 大聖堂 レイモンド・カーヴァー(2021.04.20)
- マンハッタン・ビーチ ジェニファー・イーガン(2020.01.19)
- 世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今(2018.08.13)
コメント