小型哺乳類館 トマス・ピアース
機知に富んだユーモアたっぷりの12の短篇が並んでいる。文章が緻密でうまくて、話の運びがうまい。珠玉ぞろいの素晴らしい短編集だ。なかでも秀逸なのは「実在のアラン・ガス」。
同棲相手の女は夢の中で結婚しているという。相手の名前はアラン・ガスと打ち明ける。男の頭の中でアラン・ガスの存在がどんどんの大きくなっていく。
小型哺乳類館 トマス ピアース Thomas Pierce/真田由美子 早川書房 2017年 |
息子が自宅に小型のクローン・マンモスを連れてくる。息子が出張で家を開けることになり、母親はひとりでマンモスの世話をすることになる。「シャーリー・テンプル三号」
息子が火遊びをした。2回目だ。なんとか息子の気を火からそらそうと、父親は息子をつれてグラスホッパーの会のキャンプに向かう。「グラスホッパー・キング」
イルカ好きのエリーは、男を振りそして振られる。その後バーテンダーと交際し、母の勧めた会社の面接試験を受けるとトップの成績で採用される。小論文の出来がよかったらしい。そして前に振った男とであう。「私たちはなぜ泥を食べたのか」
古い家を購入して修理をすると壁からオポッサムらしき頭蓋骨が出てきた。それを聖ホッシーと名付けた。妻が生物学を教えている同僚に調べてもらうと、得体がしれないという。「聖ホッシー」
コメディアン夫妻が飛行機に乗っている。コメディアンには息子がいて、その息子の母親が結婚式を挙げようとしている。母親はシングルマザーなのだ。母親の夫になる男が空港に迎えに来ている。
コメディアン夫婦と、息子と母親と夫になる男と、母親の両親とが一緒に散歩する。コメディアンは大人気ない行動に出る。「いまだ至らぬフィリークス」
転ぶ人々が次々につながるシチュエーション。つながりは見事に仕組まれている。「転ぶ人々のビデオ集」
気球遊覧飛行を生業にしている女が、ある金持ちの男を乗せる話。男はたったひとりで鳥かごに入れたインコとともに気球に乗る。男はわがままだ。「おひとりさま熱気球飛行ツアー」
鉱物の調査を仕事としていた弟の遺体は政府機関が厳重に管理しているという。死因の調査のため政府機関の女性を介して、隔離された弟の遺体の状況が何年にもわたって伝えられる。地球全体にとっても著しく危険な遺体なのだ。「追ってご連絡差し上げます」
子持ちの女と付き合っている。その子どもを連れて動物園に行き、人気の小動物の列に並ぶ。この子どもが可愛げがない生意気なガキだ。「小型哺乳類館」
アカデミーの会員が太古の骨の化石から巨大生物をでっち上げる見世物師を目の敵にする話。「いまの時代の私たち」
ドーベルマン2頭に餌をやって郵便物を取り込むことを、留守にする知人から頼まれた。妹は事故で高次脳機能がやられた兄とともに食品庫に隠れているのだが、犬をおとなしくさせる魔法の言葉を忘れてしまった。さあどうする。「バーバブーン」
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